第2章 パルラ攻防戦
第27話 赤色魔法
パルラという町を脱出して再び大森林地帯の上空に戻ると、何だかほっとした気分になっていた。
人里から離れてホッとするとは、俺もずいぶん野性味が増したなと思わずにはいられなかった。
それから現地人に保護外装のあちこちを触られたことを思い出すと、遺跡にまっすぐ戻らず泉に寄って水浴びをすることにした。
平たい岩の上で着ている服を脱ぐと、そのまま魔素水泉の中に入り肩まで浸かった。
そしてパルラの町で現地人に触られただろう部位の、目に見えない手垢を念入りに落としていった。
こうやって綺麗な水で水浴びをしていると、保護外装で温度は感じないが温泉とかに入ってみたくなるのは俺が日本人だからだろうか。
泉から上がると、濡れた体を生活魔法で乾かしてから服を身に付けていった。
そしてサーフパンツの上にテクニカルショーツを履いたところで、ポケットの中に霊木の実とスリングショット用の弾が無い事を思い出した。
パルラの町で眠らされた時に取られてしまったようだ。
人の持ち物を盗むなんて、全く何て奴らなんだ。
ビルスキルニルの遺跡に戻ってくると、その足でドームにある霊木の木に向かう事にした。
霊木の木があるドーム状の空間の天上が開いているので、上空から入る方が近道なのだ。
そして円形の空間から中に入ると、霊木の木は相変わらず青々とした葉が茂りそして沢山の実を付けていた。
そして霊木の木の傍に着地すると、なんだか体が淡い光を発光し傍の空間に洞窟の入口のようなものが現れた。
前回来た時には無かった物に怪しさを感じながらも、この中に財宝の匂いを嗅いだ気がしてどうしても中に入ってみたくなった。
これもトレジャー・ハンターの血が騒ぐのだろう。
その入口は白い靄がかかっているようで、中がどうなっているのか分からなかった。
初見の洞窟だと何が出てくるか分からなかったし、どんな罠があっても不思議ではないのだ。
まず手始めに魔力感知で中の様子を探ると、手前は何も無いが奥のように強い反応があった。
次に手頃な大きさの石を拾うと、洞窟の中に投げ込んでみた。
投げた石はカン、カンと何回か地面でバウンドしてから音がしなくなった。
その間、罠が発動したような音はしなかった。
それから霊木の幹にロープを結び反対側を自分の腰に結んで命綱とすると、中に入ってみる事にした。
洞窟の中は、人の手が入った事が伺える半分崩れた石造りの階段が地の底まで続いていた。
石の階段はかなり以前に作られたようで、所々崩れていて気を付けないと足を踏み外してしまいそうだった。
危険そうな場所を避けて一歩ずつ進んでいたが、やがて次の一歩を踏み出したところで地面が突然崩れるとそのまま支えを失って落下していった。
俺は真っ暗な空間に命綱として結んでおいたロープにぶら下がっていた。
真っ暗な空間に手を伸ばしてみたが、虚空の中で何も掴むことが出来なかった。
俺は腰に巻いたロープを掴むと、腕力で少し上り余裕が出来たロープを内股に挟むと両手両足を使ってゆっくりと上っていた。
何も見えないと時折自分が何処に居るのか分からなくなった。
こんな所でも空間識失調が起こるのだろうかと思いながら、蜘蛛の糸のようなロープを捕まり、着実に登っていった。
そしてようやく手がロープ以外の物を掴むことが出来ると、元の石階段の場所まで戻ってくることが出来た。
そこで息が整うのを待っていると、そういえば飛べば良かったのではと気が付いた。
つい地球でのトレジャー・ハントの気になってしまったが、ここは違う世界なのだ。
そして息が整ったところで、少し浮き上がりながら階段を降りて行った。
階段を降りた先に広い空間があり、魔素が堪っているのか魔素水泉に似た感じがしていた。
何もないような場所だったが、中央に一際魔素が濃い場所があるのでそこまで行ってみると、その地面には魔法陣が描かれていた。
俺は膝を付いてその魔法陣に手を伸ばすと、その魔法陣が反応して魔力が流れ込んだ。
すると地面がせり上がり台座が現れた。
台座の上には1冊の装丁された本が置いてあり、その周りは見えない防御膜が展開されていた。
その本はとても価値がある物のように見えたので思わず手が出してしまうと、手が触れた途端勝手に本が開き、そこから大量の情報が俺の頭の中に流れ込んできた。
それは「殲滅の火炎弾雨」という赤色魔法だった。
そう言えばあのお喋りな男はこの世界の魔法は虹色魔法と呼ばれ、7つのクラスがあると言っていたのを思い出した。
その最強クラスが赤色魔法だ。
今まで教えて貰った最強の魔法が橙色魔法の空間障壁だったので、本当の意味での最強魔法を覚えたようだ。
この魔法を発動すると赤色の魔法陣が上空に発現し、その魔法陣が現れた範囲が魔法の有効範囲となり、その範囲内にある全ての人や物を消滅させてしまう程強力な魔法だった。
現代日本で言う所の戦略核兵器といったところだ。
脅しには使えるだろうが、実際に使うとなるとその影響が大きすぎて使えないだろう。
それに強力な武力を持っていると分かった途端、恐怖を感じた者達がその恐怖ゆえに攻撃を仕掛けてくる事も十分考えられた。
この世界の常識が分かるまで、この赤色魔法は封印しておいた方がよさそうだ。
赤色魔法の魔導書が封印されていた洞窟から霊木の木がある場所まで戻ってくると、本来の目的である霊木の実の摘み取りを始めた。
実を収穫しながらその香りを楽しんでいると、あのボーという獣人の女の子が美味しそうに食べていたのを思い出した。
そしてこの実を食べたジゼルが、同じように嬉しそうな顔をしてくれるのが脳裏に浮かんだのだ。
「そうだ。この実を助けてくれたお礼として持っていってあげよう」
俺は森林地帯で見つけた保存の大葉というラップの効果がある葉に霊木の実を入れて包むと、それをテクニカルショーツのポケットにしまった。
そしてジゼルに会うため、またあの町に向けて飛び立った。
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