第20話 捕獲作戦2

「エルフよ。新種のね」


 俺がそう答えると、男は驚いたのか目を見開いていた。


「これは驚いた。さぞ旦那様も喜ばれるだろう。大人しくしていれば手当てしてやるぞ」


 男はそう言うと、隣の男に指図した。


 すると指図を受けた男は、首輪のような物を取り出してこちらに近づいてきた。


 無警戒で近づいてくるという事は、俺が手負いで抵抗できないと思っているのだろう。


 俺が身じろぎをすると、先程の男が警告を発してきた。


「おい、大人しくしていろ。さもないと痛い目をみるぜ」


 敵の数は2。そんな男達に最後の警告をすることにした。


「このまま大人しく去るなら見逃してあげましょう。そうでないなら覚悟をすることです」


 俺がそう言うと、男達は大口を開けて笑いだしていた。


 彼らは、自分の死刑執行書にサインしたことを分かっていないようだ。


 俺は魔力感知で位置を特定している男達に対して、一斉に水弾を発射していた。


 男達から見ると、一瞬で俺の周囲に現れた複数の青色の魔法陣を見て驚いた事だろう。


 だが、無詠唱で放たれる水弾を避ける事など出来はしないのだ。


 人を小ばかにしたような笑い声が消えると、周囲が静寂に包まれていた。


 これで片付いたと思っていたところに、先程のスクイーズという魔物が再び俺に向かって突撃してきた。


 衝突の瞬間に重力制御魔法を解除して踏ん張ると、激突した魔物の方が後ろ脚を浮き上がらせて急停止し、そのまま半回転して腹を上にして転がった。


 影島あおいの日記には本当に助けられていた。


 重力制御魔法を解除した段階で、俺は自分自身が重すぎで動けないのだ。


 重力を調整して動けるようにしてから先程の魔物を見ると、脳震盪を起こしているようでひっくり返ったまま硬直していた。


 その突き出した4本の足の1本には、その獣には全く似合わないアンクレットが取り付けられていた。


 そう言えば俺が肉団子の中に居る時、足を引っ張り出して隷属のアンクレットを付けると言っていたな。


 これがそれなのだろう。


「おい、そのアンクレットをどうするつもりだ?」


 声がした方に目を向けると、そこには先程他の男に命令していた男が立っていた。


 俺の魔法攻撃を受けたはずなのに、その傷跡はどこにも無いようだった。


「貴方は何者ですか?」


 俺が誰何すると、男は筋肉質の腕に金属製の籠手を付けながら答えてきた。


「俺は亜人や魔物を専門とした捕獲屋なんだ。俺の雇い主がどうしてもお前が欲しいと言っているんだ」


 なんだと。


 俺は現地人との係わり合いを極力避けてきたはずなのに、何故俺の事が知れ渡っているんだ?


 そこであのお喋りな男の事を想い出していた。


 ああ、奴なら触れ回りそうだな。


「出来れば見逃して欲しいのですが」

「それは無理だな。雇い主は首を長くして待っているからな」


 どうやら見逃してはくれないようだ。


 ならば、敵の戦力を削いでおくか。


 俺は目の前でひっくり返っている魔物の足からアンクレットを引きちぎろうとしたが、何等かの力が加わっているのかびくともしなかった。


 それならとダイビンググローブを取り出して左手に嵌め、再びそのアンクレットを掴んでみた。


 このグローブはエナジードレインの魔法が発動するのだ。


 するとバチッという音が響き、魔法効果が消えたアンクレットは簡単に外れた。


 地面に落ちたアンクレットの内側には魔力結晶が付いていたことから、どうやらこれがこのアンクレットに魔力を供給していたようだ。


 目の前の男は、その光景を見るとため息をついて首を横に振っていた。


「やれやれ厄介な事をしてくれたな。そいつが無いとスクイーズが暴走したら止められないんだぞ」


 その男はまるで俺が悪いと言っているようだった。


 その言われ方にちょっとむっとしたので言い返してやった。


「あら、魔物も貴方達に掴まっているより、自由でいたいと思っているはずですよ」

「言ってくれるな。だが、お前を捕まえればこの損失も元が取れる」


 そう言うと男が動き、俺に向けて右手を突き出す動きは速かった。


 この世界は獣人といいこの男といい動きが素早いな。


 俺はこちらに来てから接近戦で勝てたのはこの保護外装の防御力のおかげであり、俺自身の力では全て負けていただろう。


 それというのも俺のサバイバルナイフでの攻撃は全て躱され、敵の籠手による攻撃は全て当たっているからだ。


 敵の攻撃を受けるたびにドスという嫌な音はしていたが、ダメージは魔力障壁が防いでくれるので戦闘継続には支障は無かった。


 流石に勝てないと分かり一旦離れようとしたが、男は距離が開くと魔法で攻撃される事を理解しているので、俺が離れようとするとすかさず前にでて更なる攻撃を加えてくるのだ。


 体が触れるほどの接近戦では魔法は使えない。


 何とか距離を開けようとするのだが、その度に男が近づいてくるのでなかなか距離を取る事が出来なかった。


 こうなってくると後はこの男が疲れで動きが鈍くなるのを待つしかないが、それまで俺の魔力障壁が持つか分からなかった。


 不利な膠着状態が続いていると突然黒い影が現れ、俺達に体当たりを食らわしてきた。


 俺は咄嗟に重力制御魔法を解除してその場に留まったが、男の方は吹き飛ばされるとそのままの勢いで木にぶつかり、その衝撃でねじ曲がりピクリとも動かなくなっていた。


 俺達にぶつかって来た魔物は、どこかに消えていた。


 俺は男の死体を見下ろしながら、男が言っていた魔物の暴走と言う言葉を思い出した。


 魔力感知で消えた魔物を探してみると森の外に向かって走っており、その行く手には沢山の人の反応があった。


 あの魔物が暴走して被害が出たら、俺のせいになるのか?


 唯でさえお尋ね者になっているかもしれないのに、これ以上悪評が加わったらまた討伐隊を派遣されかねない。


 俺は魔物を止めるべく走り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る