第18話 ゴーレム作成

 ドワーフが使う錬成は、錬金釜の中に素材を入れて作るという物ではなく錬成陣で素材を合成するらしい。


 これは分離も出来るようで鉱石から金属とその他に分離できるようで、後で金鉱脈を探して持ち帰ろうと思っている俺にとってこれはありがたかった。


 これなら金鉱脈を見つけたらそのままインゴットに成型して、元の世界に持ち帰ることも可能だろう。


 そこでふと疑問に思った事を聞いてみることにした。


「坑道にはトロッコ用のレールがありませんでしたが、鉱石はどうやって運ぶのですか?」

「ああ、それならゴーレムに運ばせるんじゃよ」

「ゴーレム?」

「こうやるんじゃよ」


 そう言うとバラシュは土団子を作り始めると、それに透明な米粒大の石を入れた。


 そして錬成陣の上に乗せると土団子はみるみるうちに形を変え、小さなゴーレムが出来上がっていた。


「この魔力結晶を魔核としてゴーレムの中に埋め込むと、それが動力源となって動き出すんじゃ」


 俺は手の平サイズの小さなゴーレムがよちよち歩くのを眺めていたが、こんな小さくて非力なのにどうやって鉱石を運んだのかとまた疑問が湧いてきた。


「随分小さいですね。これで鉱石を運搬していたのですか?」

「ああ、これはゴブリンから取れる魔力結晶じゃからな。こんなもんじゃろ。魔物は魔素を取り込み蓄えて置ける器官があって、魔素はその中に魔力結晶として蓄積されるんじゃ。ゴーレムの性能は、この魔力結晶の大きさに左右されるんじゃよ。実際に坑道で使うのはもっと大きい物じゃ」


 バラシュが手に持っている小さな石粒をじっと見ていると、似たような石を思い出していた。


 それは俺が朝起きた時に体の周りに落ちている透明な結晶で、この保護外装から剥がれ落ちている物なのだろうと考えていた。


 もしかしてこれも魔力結晶と呼ばれる物なのだろうか。


「これもその魔力結晶という物ですか?」


 俺はうずらの卵大の透明な結晶を取り出すと、それをバラシュに見せた。


 バラシュはそれを見て目を見開いていた。


「こ、これは魔宝石・・・しかもありえん程純度が高いぞ、それに随分大きいのう」

「魔宝石? それは魔力結晶とは違うんですか?」

「魔宝石は魔法結晶を研磨して宝石にした物だ。成分は同じだが、魔力結晶を成形するからエネルギー効率が良くなるのだ。強力なゴーレムを操れるぞ。勿体ないけどな」

「これならもっと大きなゴーレムも動かせるのですね?」

「ああ、これなら戦闘用ゴーレムでも、人間そっくりに動くオートマタも動かせるぞ」

「オートマタ?」

「ああ、自由意思で動くから簡単に言うとお前さんの分身みたいなもんだな」

「そんなもん作ってどうすんだよ」


 おっといけない、思わず素が出てしまった。気を付けないとな。


 それにしてもこの保護外装は色々な機能があるな。


 とりあえず魔宝石がこの保護外装から剥がれ落ちた物だろうという事は、黙っていた方がよさそうだ。


 俺はドワーフが驚いた顔をしているのを軽くスルーすると、土団子を作りその中に魔宝石を入れた。


 そして錬成陣を展開して魔力を流し込むと、土団子は魔力を吸収してみるみるうちに大きくなり2m程の大きさのゴーレムが出来上がっていた。


 出来上がったゴーレムは、大きな逆三角形の胴体に太い両腕が付き、すぼまった腰から先には短い脚が付いていた。


 逆三角形をした胸部は両開きの扉があり、その中には格子状になった穴が開いていた。


 俺がしげしげと出来上がったゴーレムを眺めていると、バラシュの声が後ろから聞こえてきた。

 

「これは戦闘用ゴーレムじゃねえか。その胸の仕組みはどうなっているんじゃ?」

 

 これはゴーレムをイメージする時に、ちょっと胸から石礫を発射する仕組みがあるとかっこいいかなあと思ってしまったのだ。


 せっかくだから、戦闘用ゴーレムを動かして見ることにした。


 それで分かったことは、ゴーレムは基本的に物理で攻撃するようだ。


 両腕を左右に伸ばすと、そのままの態勢で腰の部分を回転させると周りにある樹木をなぎ倒した。かなりの戦闘力があるようだ。


 そうなってくると胸のあの装備が気になってきてしょうがなかった。


 俺はゴーレムに命じて胸部から石礫の発射を命じると、その場で構えたゴーレムは胸の扉を開いた。


 その中には5列10段の石礫の発射筒があり、空気を圧縮して打ち出す空気銃のような構造になっていた。


 試射をしてみるとすさまじい発射音が轟くと、標的となった樹木が木っ端微塵に吹き飛び、破壊された木片が雨のように降り注いでいた。


 もうもうと立ち込めた煙が消えると、そこには何もなかった。


 バラシュもその光景をみて真っ青な顔をしていたが、俺に対しては何も言わなかった。


「ちょ、ちょっとやりすぎましたね。あははは」


 俺は何とか誤魔化すと、今度こそ運搬用のゴーレムをイメージした。


 すると今度は背の低く胴長の4足歩行ゴーレムが出来上がった。


 背中には運搬用の籠を乗せており、この中に砕いた鉱石を入れて坑道を歩くことが出来るようだ。


 フムフム、後で金鉱脈を見つけたらこれで運び出そう。


 ここで金鉱脈を発見したらインゴットにして持ち帰って、俺は借金を返したうえで大金持ちになれるだろう。


 ああ、これで気の進まない仕事をすることもなく、スポンサーに金を出してもらうための気の遠くなるようなプレゼンテーションともおさらばだと思うと、俺の心はとても晴れやかになっていた。


 ゴーレムの素材は錬成術でいくらでも加工できるし、鋳型不要で成形できる点はこの世界の方が便利だった。


 暫くゴーレム作りを色々研究してから、ようやく満足したのでバラシュを森の外まで送ってあげることにした。


 なんだかんだ言っても、この男には色々世話になったのだ。


 これ位のサービスは当然だろう。


「バラシュさん、ヴァルツホルム大森林地帯を抜けるまで、私が連れていってあげますね」

「はあ? 儂はエルフに助けてもらうほど耄碌はしておらんぞ」

「でも他の調査隊の仲間はみんな死んでしまったのでしょう。一人で森を抜けるのは大変ですよ。いいから私に頼りなさいな」


 俺は重力制御魔法でバラシュを軽くすると、そのままバラシュを後ろから抱えて上空に舞い上がった。


「そうじゃ、このまま南西に行ってくれんかの」


 バラシュの話だと、ここから南西の方角にはロヴァル公国という人間の国があるらしい。


 その南にはハンゼルカ伯国という国があり、その国はバルギット帝国とロヴァル公国それにアイテール大教国に接していて、国際交易の中継地点になっているそうだ。


 そしてこの国には各国の商館が置かれていて、ドワーフ王国の商館もあるんだとか。


「それじゃバラシュも気を付けて帰ってね」

「ああ、お前さんもな。今回は大分世話になった。ありがとさん」

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