第16話 坑道調査1
俺は遺跡を探してそこからお宝を探すつもりだったが、ドワーフに協力すれば報酬として金塊を分けて貰えるかもという下心があった。
山脈の手前まで飛行魔法で飛んで行くと、開けた場所に着地して森の中を山脈の麓に向けて歩いていた。
その間、森の中は生物が全く居ないかのように静かだった。
「しかしユニス殿が一緒にいると、魔物が寄ってこないから助かるのう」
バラシュが突然そんな事を口にしていた。
相変わらず失礼な奴である。
それではまるで、この俺が魔物よりも恐ろしい化け物みたいではないか。
だが、俺もいい大人なので、こんな失礼な奴の戯言など聞き流せるのだ。
それに静かでいいではないか。
「ピクニックみたいでいいじゃないですか」
俺がそう言うと、バラシュは複雑そうな顔でこちらをちらっと見てきたが、それ以上は何も言わなかった。
やがて森が切れると、その先にはごつごつとした岩の壁が現れた。
それらの一部は白い色をしていて恐らくは石灰岩だと思われた。
バラシュはその岩壁に沿って歩いて行くとやがて、隠れていた坑道の入口を探り当てていた。
その入り口は巧妙に隠されていたので、俺だけでは到底探せなかっただろう。
バラシュを誘ったのは正解だったと改めて自分を褒めていた。
「こんなところに入口があったのですね。ところでこの先には何があるのですか?」
俺は下心が見えないように腐心しながらそう言うと、バラシュは素直に答えてきた。
「ここは坑道の先が複雑に分れていてな、いろいろな鉱石を採掘していたんだ。それが今では魔物の巣だ」
「へえ、そうなのですね」
俺達は坑道の入口に来ると、まず坑道の劣化具合を調べることになった。
この坑道は7百年も放置されていたというので、崩落の危険が当然予想されたからだ。
入った後で天井が崩落して生き埋めなんて御免だった。
坑道の壁は意外と固くしっかりとしていて、それはよく見るとコンクリートで固めたような感じだった。
例えばローマン・コンクリートは今の時代でもしっかりと形を留めているので、これもそれと同じなのかもしれなかった。
「バラシュさん、貴方達ドワーフにはコンクリートの知識があるのですか?」
「はあ、こんくりいと? それは一体なんだ」
このドワーフはとぼけているのか、それとも異世界なので全く違った名前なのかもしれないが、髭もじゃな顔では表情を読むことが出来ないのだ。
「これの材料は石灰と火山灰ですか?」
俺がそう言うとドワーフは目を大きく見開いたので、初めて驚いた事が表情で分かった。
「な、なんで知っとるんじゃ? まあ儂らドワーフは錬成術が使えるからな。それらの素材を使って壁を固める材料にしとるんじゃよ」
「それって金を産み出すとか言うあの錬金術の事ですか?」
「うん? 儂らは金だけを作っている訳ではないからな、色々な材料を作り出すから錬成術と呼んでおるんじゃ」
なるほど、だからコンクリートも錬成で作っているのか。
これだけしっかりと坑道を作っているという事は、この坑道にも金や銀の鉱石や宝石なんかも期待できそうだ。
それに錬成術をマスターすれば、鉱石から金を取り出せるだろう。
「凄いですね。私もその錬成術を使ってみたいです」
ドワーフに効くかどうか分からなかったが、思いっきり上目遣いで可愛くそう言って唇に指を当ててみた。
この際、男としての矜持に目を瞑ってでも実を取るのだ。
だが、何故かバラシュはドン引きしたような顔をしている。
おい、俺だって恥ずかしいんだからそんな顔をするんじゃない。
それに表情筋が引き攣りそうなんだぞ。
「えっと、その・・・・分かった、分かったから、調査が終わった後でいいかの?」
「ええ、それでよろしくお願いします」
畜生、恥ずかしくて顔が真っ赤になったじゃないか。
だが、これで錬成術を教えてもらえるのなら安いものだ。
それに愛想だけならタダだからたっぷり振りまいてやろう。
坑道の中は外光が入って来ないのに、うっすらと明るかった。
「ねえバラシュさん、ここは何故明るいのですか?」
「ここには発光石を等間隔で設置してあるからな。この石は周囲の魔素を吸収してそれで光るんだ」
おお、流石は異世界だ。そんな物まであるのか。
そこでバラシュがこちらを見ると、俺に「魔力感知」は出来ないのかと聞いてきた。
見通しが悪い坑道の中では不意打ちを食らう危険があるので、魔力感知で接近してくる魔物を感知した方が安全だというのだ。
そしてバラシュに魔法名と使用方法を教えて貰ったので、俺にもその魔法が使えるようになっていた。
坑道内を捜索しながら歩いていると、通路が二股に分かれている場所に出た。
「右に行くと坑道が続いていて、左に行くと鉄がとれるんじゃよ」
鉄だと今の俺には必要ないが、魔力感知には反応があった。
「ちょっと、バラシュさん、鉱脈を見てきたいのでここで少し待っていて下さい」
「ちょっと待て、儂がここで呑気に待っていたら魔物に襲われるだろう。儂も一緒に行くぞ」
左側の坑道に入って暫く進むと、この先に魔物がいるようだ。
「この先に魔物が居るようです。私が先に行きますからここで待っていてください」
「お、おう、分かった」
バラシュはちょっと不安そうだったが、俺がそう言うと素直に従ってくれた。
俺は坑道の先に進んで行くと、そこには俺の背丈の2倍はありそうな大きな芋虫がいた。
体格の割に小さな眼と口があるが、それよりも大きな触覚があるので、それで空気の流れ等を感じ取っているのだろうと推測していると、俺に方に触覚を向けて盛んにそれを動かし始めた。
どうやらこちらを感知しているようだ。
「あれはメタルムーブじゃ。食らった鉱石を糸にして攻撃してくるぞ」
後ろでバラシュが解説してくれた途端、メタルムーブが口を開き、そこから糸のような物を吐き出してきた。
糸は俺の直ぐ傍を通り過ぎると坑道の壁に突き刺ささり、破片を周りにまき散らした。
「え?」
どうして糸でコンクリート壁を破壊できるんだ。
だが、吐き出した糸を切ると、直ぐに次の糸が俺の魔力障壁に当たり、「ガリッ」と嫌な音を立てていた。
音だけ聞くとかなり固そうだが、切られた糸に触れてみるとそれは普通の糸のように簡単に曲がっていた。
初見の相手は目を狙うのが鉄則なのだが、このような光の無い場所に居る魔物は予想通り目が退化していて小さすぎて当てるのが難しかった。
だが、先程触った糸は電気を通しそうだったので、雷の魔法を刻み込んだ杖を取り出すと、そのまま次の攻撃をしてきた時に糸目掛けて魔法弾を撃ち込んでやった。
予想通り空中に発現した雷はその糸に流れ込み、そのまま魔物に口に向けて青白い光となって襲い掛かっていった。
一瞬魔物の体が光ったと思ったら、外殻の隙間から煙を出して動かなくなった。その匂いで内部の柔らかい組織が焼けたのが容易に想像できた。
メタルムーブが吐き出したのは金属糸なので、これがあれば鎖帷子や金属糸で編んだ服とかも作れそうだった。
蚕とかのように家畜化出来れば面白いかもしれないな。
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