第15話 新たな邂逅2
「まさか、あの遺構か」
それを聞いたドワーフは目を大きく見開き、口をパクパクと動かしていた。
どうやら本当に驚いているようだが、あの遺構ってまさか国の重要文化財とかって言うんじゃないだろうな?
もしかして、俺って文化財破壊罪とかで捕まったりしないよな。
ヤバイ、何か嫌な汗が出てきたぞ。
俺はドワーフの肩を掴んで揺すってやると、ようやく我に返ってくれたようだ。
「はっ、儂とした事が」
ようやく現実に戻ってきたドワーフの顔色を確かめようとしたが、髭が邪魔で表情が分からなかった。
いい加減鬱陶しいから剃ってやろうかとも思ったが、髭はドワーフのシンボルなので怒らせるだけだろうと思い止まっていた。
まあ、あの遺構が意外に知られている事が分かっただけでも収穫だろう。
だが、この男はまだこちらの質問に答えていなかった。
「そろそろ私の質問に答えて貰えないかしら」
俺がこちらに質問にも答えるように促すと、ドワーフは汗を掻いたのかさかんに額を拭っているようだった。
「おっと、す、すまん。儂らは、昔そのアマル山脈に住んでいたんじゃが、魔物に住処を追われての。戻れる可能性が無いか調べに来たんじゃ」
俺はそれを聞いて胡散臭いものを感じていた。
普通そう言った調査であれば、調査団が結成されるはずだ。
たった1人で来ることなどあり得ないだろう。
「へえ、たった1人で? 私よりあなたの方がよっぽど胡散臭いわね」
するとドワーフは、苦虫をかみ殺したような顔になっていた。
「儂以外の調査団の連中は、皆魔物に殺されてしまったんじゃよ」
俺は聞いてはいけない事を聞いてしまったようだ。
ここは大人の対応として、お悔やみを口にするべきだろうな。
「それは申し訳ありませんでした。お悔やみを申し上げます」
俺がしおらしく頭を下げてお悔やみを口にすると、ドワーフはそれが意外だったのか、どもりながらも「お、おう」と言って手を横に振っていた。
俺はこのドワーフから、どうやったら坑道の場所を聞き出せるか考えていた。
既に放棄されているのなら、俺がその坑道で金や銀の鉱石や宝石類の鉱脈を探しても問題は無いだろう。
それがあれば、個人破産の危機から脱出することが可能になるのだ。
「私が貴方の調査を手伝いましょうか?」
「なんじゃと、胸な・・・エルフにそう言われると裏があるんじゃないかと勘繰ってしまうのぉ」
一瞬ドキリとした。
これが生身だったら今頃冷や汗が出て疑われたかもしれなかったが、幸いな事にこの保護外装は汗が出ないのでバレることは無いのだ。
ふう、危ない、危ない。
「私にはドワーフを嫌う理由は無いんですが、そんなにエルフがお嫌いですか?」
「そうじゃのぉ、それじゃ酒でも飲みながら相談しようか。いや、ここんところずっと魔物に邪魔されてご無沙汰での。飲みたくて堪らんのじゃ」
俺は「酒」という単語に反応して、喉がゴクリと鳴っていた。
そうなのだ、この世界に来てから酒を飲んでいないのだ。
ドワーフじゃないが、俺も酒を飲みたくて仕方なかった。
その後、ドワーフの酒に付き合っている内に知らぬ間に眠り込んでいた。
+++++
バラシュは、焚火の反対側で小さな寝息を立てて眠る自称新種エルフの顔をじっと見ながら、酔わせて聞き出した情報を整理していた。
この娘は自分の事を新種のエルフと呼び、この大陸に住んでいれば子供でも知っている常識を知らず、2ヶ月以上前の記憶も無いらしい。
そして恐らくは、最悪の魔女が塒にしていたという場所に住んでいるようだ。
普通に考えたら唯の馬鹿か、大ぼら吹きとなるのだが、この娘に会ってから魔物の襲撃が無いという事実は無視できなかった。
ヴァルツホルム大森林地帯の魔物は相手の魔力に敏感で、自分より強い相手には決して近づかないのだ。
バラシュが知っているそんな恐ろしい魔物は、古竜か魔女くらいだ。
人型に変態する古竜は、その肌は鱗が変化しているので触れば鋼のように固いからすぐに分かるが、眠っている隙に触った感触はとても柔らかいのだ。
すると残る可能性は本当に新種のエルフか、7百年前に討伐されたという最悪の魔女が復活したという事になる。
この娘が最悪の魔女だとしたら、森林地帯に入ってからあれだけ襲ってきた魔物が一切襲ってこないという事も納得できる。
カルメの冒険者ギルドで魔女の噂を聞いて、その信ぴょう性を確かめるため森林地帯に入ったのだが、まさかあちらから来てくれるとは思いもよらなかった。
人間達の噂では魔物を使って襲って来たらしいが、人間種に対して強い憎悪を抱いているようには見えなかった。
7百年前の戦いでドワーフ族は中立を貫いたが、その結果、古巣を追われ昔の繁栄を懐かしむ生活を強いられている。
復活した魔女が昔の記憶を思い出して再び人間種に戦争を仕掛けたら、多くのドワーフは昔の栄華を再びという思いで、今度は味方するだろう。
だが、再び魔女が負けるような事にでもなれば、獣人達の悲惨な生活をドワーフも味わうことになる。
怒りの沸点が低い相手に運命を託すのは危険なので、復活したての魔女がどの程度理性的なのかを身の危険を冒してでも見極めるのが、魔女を見つけてしまった俺の責任だろう。
何故か魔女は坑道に興味があるようなので、機嫌を取るために1つくらい教えてもいいだろう。
ただし、その場合でも価値の低い物だがな。
+++++
翌朝俺が目を覚ますとドワーフのバラシュはまだ横になっていたが、俺が起きたのを察知して起きだしてきた。
そして図々しくも、俺に朝食を作って欲しいと言ってきやがりました。
しかし俺はこの世界に来て料理なんてしたことが無いし、持っている食材は霊木の実だけだった。
「バラシュさん、私が持っているのは木の実だけです。それに料理と言っても調味料も持ってないので無理ですよ」
俺が正直にそう言うとちょっと驚いたような残念そうな顔になった後で、何故かとても可哀そうな物を見るような目で俺を見てきた。
「お前さん、もしや葉っぱや木の実しか食べないのか?」
何故だがとても馬鹿にされたような気がするが、そんなにおかしい事なのか?
「そんな事はありませんよ、肉も魚も大好きです・・・多分」
多分と言ったのは、こちらに来てから霊木の実しか食べていないからだ。
まあ、昨晩何も考えずに酒を飲んだので大丈夫だとは思うが、固形物はどうか分からないからな。
「何じゃいそりゃ? まあ、普通は女の方が料理を作るもんじゃが・・・・儂がつくるかの。じゃが、お前さんも料理ぐらいできないと嫁の貰い手が無いぞ」
「な」
外見が女になっているせいで、俺がシェリー・オルコットに言った嫌味がそのまま自分に帰ってくるとは思わなかった。
俺はその場で地団駄踏んで悔しがりそうになっていた。
「お前さん、大丈夫か?」
どうやらバラシュは、俺があまりにもおかしな行動をしているので、頭が変になったのではないかと心配しているようだ。
ほっといてくれ。
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