第14話 新たな邂逅1

 現代日本に帰る術が無い俺にやれる事と言ったら、帰れた時に待っている破産から逃れるための資産確保だった。


 そのため、今日も鬱蒼と茂る木々の上空を飛び、財宝があるかもしれない遺跡を探しているのだ。


 今の所全く成功していないが、地球だって財宝がそんな簡単に見つかれば、皆サラリーマンなんかやらずに宝探しをしているだろう。


 要は根気とやる気である。


 すると前方から「ドーン」という音が響き森林が揺れると、そこからゆっくりと大木が倒れていった。


 何が起きているのだろうと興味を惹かれて近づいてみると、大木が倒れて視界が開けた場所に子供が逃げる姿とその後を追う大型の四足獣の姿が見えた。


 この世界の現地人は非友好的なので関わり合いになりたくはないのだが、子供がたった1人で追われている姿を見てしまっては、無視するわけにもいかないだろう。


 子供を追いかけるため地表すれすれまで舞い降りると、そこから木々を縫って追いかけて行った。


 やがて現場に到着するとそこでは4足獣が子供を下敷きにして押さえつけ、今にも噛み砕こうと口を開けているところだった。


 その大きく開けた口内に向けて石礫を撃ち込んでやると、痛みで口を閉じると首を左右に振っていた。


 口の周りを赤く染めた4足獣がこちらを睨んできたが、次の瞬間には目を大きく見開き毛が逆立ったと思ったら、脱兎のごとく逃げ去っていた。


 次の攻撃を考えていた俺は肩透かしを食らった形だったが、敵が逃げたのならそれはそれで結果オーライだろう。


 俺は直ぐにうつ伏せに倒れている子供の傍に行くと声を掛けてみた。


「少年、ここは1人で遊びにくる場所じゃないわよ」

「誰が子供じゃ。儂はこれでもいい大人ぞ」


 そう言って振り返った顔には、子供ではありえない濃い口髭と顎鬚が生えていた。


「えっと、もしかしてドワーフっていう種族の方?」


 すると男は、ちょっとむっとした声色で答えてきた。


「なんじゃい、ドワーフを見るのが初めてみたいな言い方をして、これだから胸なしは意地が悪いと言われるんじゃ」


 何だかいきなりお怒りモードのようだが、ドワーフというのは合っているようだ。


 俺の知識にあるドワーフと同じなら、鉱石に詳しい種族のはずである。


 そして金銀財宝ザックザクという当初の目的が、現実になるかもという下心が湧いてきた。


 ここは友好的に接して、地下鉱脈の情報とかを仕入れる事にしよう。


「私はユニスと言います。貴方のお名前は?」

「うん、儂か儂は、バラシュじゃ」

「それでバラシュさん、もしかしてあの山脈のどこかにドワーフの国とか、坑道があったりするのですか?」


 俺は背後にある大きな山脈を指さしながらそう尋ねた。


「いや、無いぞ」


 随分短い返事だった。


 一瞬大きく膨らんだ俺の中の期待が、一気にしぼんでいた。


 良くある山脈の中に街を作るというのは、ゲームの中の設定でしかないようだ。


「それでは近くに集落とかあるのですか?」

「いや、無いぞ」


 この短い返答で、どうやらこのドワーフは俺に情報を教えたくはないという事に気が付いた。


 この世界の人間や獣人も俺には非友好的だったが、どうやらドワーフもそうらしい。


 そこでちょっと嫌味を言ってやる事にした。


「ドワーフは恩知らずな種族なのですか?」


 そう言われたドワーフは、手を振り回して怒りを示し始めた。


 髭が邪魔で表情が読めないので、どうしても身振り等で相手の感情を読むしかないのだが、おおよそ合っているようだ。


「な、全くこれだから胸なしは、いくら仲が悪いからといっても、言っていい事と悪い事があるぞ。ドワーフ族は義理と人情に篤いんじゃ。お前達のような他種族に冷淡な連中と一緒にするな」

「ドワーフが義理と人情に篤いのなら、何故命の恩人に礼の一つも言えないのですか?」


 俺がドワーフに助けてやった事を指摘してやると、怒りにワナワナと震えていた肩がしょんぼりとしたなで肩に戻っていた。


「なっ、これはすまん。助けてくれてありがとう」


 そう言うとドワーフは地面に胡坐をかいた状態から、上体を倒してお辞儀をしてきた。


 どうやらこのドワーフは意外と素直な様だ。


 俺はそれを見ながら、これならいけると踏んで再度質問をすることにした。


「それでバラシュさん、近くに住んでいないのにどうしてこんな所に居たのですか?」


 するとドワーフは俺の目を見て驚いたように目を見開き、それから俺の全身を眺めるように見ていた。


「その前に一つ教えてくれんかの。お前さん、胸がえらく腫れあがっとるようだが大丈夫なのか?」


 何て失礼な男なのだ。


 このグラマーな体を見て、とんでもない失言をしてやがります。


「ちょっと、これのどこが腫れあがっているというのですか?」


 そう言って思いっきり胸を突き出してやった。


「いやなに、ついにエルフも胸なしが嫌になって、作りものを胸に入れ始めたのかと思っての」


 そう言って大笑いを始めていた。


 このドワーフは事あるごとに胸なしと言ってくるが、この世界のエルフとは貧乳なのか?


 この体も保護外装だから厳密には本物とは言えないのだが、だからと言ってこうも何回も胸なしと言われるのは流石にムッとくるな。


 だからここはきっちり否定しておこう。


「これは本物です」


 厳密にはこれも保護外装の胸だから本物ではないが、そんな事はこのドワーフには分かりようもないから問題ないのだ。


「お前さん本当に胸な・・いや、エルフなのか?」


 なんと、今度はエルフであることを疑ってきやがりました。


 耳が長いのは、エルフという種族ではないのか?


「ええ、そうですよ。エルフだけど何がおかしいのですか?」

「いなや、儂が知っているエルフ族は皆、銀色の髪に黄色の目をして洗濯板のようにぺったんこな胸をしとるんじゃが、お前さんは・・・全然違うのう」


 そう言って俺の胸をじっと見てきた。


 成程、それで俺が何者か分からずに警戒しているということか。


 だが、素直に本当の事をいう訳にもいかないのだ。


 ここは一つそれらしい嘘を言っておこう。


 そこで俺は「こほん」と一つ咳をすると、改めて言い直した。


「私は、そう・・・新種のエルフよ」

「新種じゃと・・・確かに赤い瞳にその胸は初めて見るな。それじゃノール湖に住んどるエルフとは違うんじゃな?」

「ノール湖? それはこの森林地帯の中にあるのですか? 確かに私の住んでいる遺構の近くにも泉はあるけど名前なんて知りませんよ」

「遺構? それはどこにあるんじゃ?」


 そう言うとバラシュは急に真面目な顔をして身を乗り出してきたので、俺の方が驚いてしまった。


 だが、あの場所をどうやって説明するのかが分からなかったので、遺構がある方角を指差してみた。


「あちらの方角よ」

「・・・ほう」

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