第13話 星野と川村、友情の連携プレー!
流動人間はニュルニュルと腕を伸ばして数限りない打撃を星野に与えていくが、彼は卓越したフットワークで回避し続けていく。
躱し続けながらも少しずつ間合いを詰め、流動人間の顔面に強烈なフックを叩き込んだ。水の顔が凹み、胴体が崩れる。さらにリバー、ボディー、ジャブ、ストレートと連打していった。拳は小さいが威力は不動の比ではない。
星野は無表情ながらも胸に怒りを宿していた。
何日も前から楽しみにしていたショーを台無しにされ、子供たちを悲しませた流動人間に対する憤りは動きにあらわれている。素早く的確な打撃を食らい続けて流動人間の身体には絶え間なく波紋が広がっていく。
しかし人工生命体に決定的なダメージを与えるには至らない。プルプルと震えたかと思うと、液体に戻って大きく間合いをとった。両の翼を駆使して急接近してアッパーを繰り出すが、身体の表面を削るだけにとどまってしまう。
普段は相手の攻撃を受け続けてから反撃をする戦法を好む星野だが、この戦いでは自分が積極的に手を繰り出す側に回っていた。
幾度も打撃を受け続けたことにより、高度な知能を持つ流動人間は星野の攻撃パターンを学習し、少しずつ躱すようになっていった。
顔面への攻撃を拳が命中すると同時に顔を動かして威力を半減させる。
標的がズラされたことにより腕を戻す際の一瞬の間ができたことを流動人間は見逃さず八本に増やした腕でタコ殴りにしていく。
無類のタフネスを誇る星野も超高速かつ四方八方から迫る打撃を回避するのは至難の業であり、躱すのを諦めたのか全て受けきっていく。
流動人間は呼吸する必要がない。間のない無数の打撃が機関銃のように放たれるが星野はサンドバックの如く受け続ける。
川村は助けに入ろうと刃を持つ手に力が入るが、星野は静かな闘気を出していた。
彼の闘気を察しして川村は助太刀を止めた。
星野は先ほどは怒りで平静を失っていたが、意図せずして冷静さが戻りいつもの戦闘スタイルへ切り替えることができたのだ。
相手が無防備なのをよいことに調子に乗った流動人間は顔に耳まで裂けた口を作り出して喜びの感情を示し、打撃のギアを上げていく。
自分は強いことを誇示すべく目視不能の攻撃が八本の腕で行われていくが、しばらくして星野が言った。
「この程度では僕を倒すことはできませんよ」
相手は血だらけながら表情に変化はなく、今だ一度もダウンしていない。それどころか一度もガードさえしていないのだ。ノーガードでも大丈夫だと言わんばかりの態度に流動人間はプライドを傷つけられたように思えた。
先日はジャドウを相手に似たようなことをされた。スター流のメンバーは基本的にタフなのだが、その中でも星野とジャドウのタフネスは抜きんでている。
彼らとの戦闘経験が少ないためにその考えにたどり着くことはできなかったものの、どうやら低く見られているらしいと感じた彼は再び液体に戻ると、床や柱を吸収して同化し、柔らかな体に硬度を獲得し巨大化していく。
先ほどの何倍もの巨腕が振るわせ、星野の身体に着弾。
華奢な少年天使は入口まで吹き飛ばされてしまう。
瓦礫に埋まりピクリとも動かない。気絶してしまったらしい。
川村は強く歯を食いしばって耳を逆立て猫目で睨む。鼻息を荒くし、尻尾も立つ。
完全に戦闘モードに突入してしまった。機動力で勝る川村は流動人間が一撃を出すよりも早く彼の全身に斬撃を浴びせて細切れにしていく。
川村の『斬心刀』はその名の通り相手の心さえも切断することができる宇宙最強の切れ味を誇る刀だ。
それがたとえ流動人間でも変わらない。
しかも、彼は流動人間の変化に気づいていた。
「硬いモノを取りこんだのは失敗でござったな!」
攻撃力は高まるが半面最大の特徴である柔らかさは失われてしまう。
星野は最初からそれを狙って受けに徹し続けたのだ。
無言の連携プレーに咆哮しながら巨体を崩し、ついには跡形もなく消えてしまった。中央広場は破壊され残された爪痕がいかに凄まじい戦闘だったかを物語っている。
愛刃を鞘に収納し深い息を吐きだして呼吸を整える。
「星野殿を助けねば……」
川村が踵を返し一歩を踏み出した途端、胸部に鋭い痛みが走る。
細い一筋の血が川村の小さく形の良い顎から流れ落ちる。目は限界まで見開かれ、両腕はダラリと下がり、足に力は入らない。
背後からは先ほど倒したはずの流動人間が腕を槍に変形させて彼を貫いていた。
引き抜くと床に血だまりを残して両膝から崩れ落ちる。
意識を失う寸前に川村が見たのは、もう一体の流動人間の姿だった。
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