第9話 ジャドウの長所と狡猾な罠
スター流で最もタフなのは誰か?
その問いに彼らはこう答えるだろう。
星野天使(ほしのてんし)とジャドウ=グレイのどちらかだろう。
ジャドウ=グレイは一九六㎝の身長に対して体重は九十六キロしかなく針金のように痩せている。当然ながら筋肉は鍛えてあるのだが不動やカイザーと比較すると異様なほど細い。青白い顔に白髭の生えた貫禄漂う歴戦の将のようにも亡霊のようにも思われる外見は対戦相手に不気味さを与える。
しかしながら彼はスターの最初の弟子にも関わらず、弱い。
後から入ったメンバーに練習試合でも連敗を喫し、挙句の果てには元人間であるロディに対しても不覚を取る始末というのだから、彼の弱さが伺えるだろう。
しかし彼はどれほど連敗を重ねようともスターから見切られることも、上位の実力者としての看板を下ろすこともなかった。理由は異常なほどのタフさにある。スター流は数億年の歴史の中で少数精鋭なことも手伝ってか戦死者、殉職者の数が多い。
しかしジャドウは数多の修羅場の中で常に生き残ってきた。不死身なのである。
どれほど殴られようと斬撃を浴びようと毒を盛られようと爆発に巻き込まれようと封印されようと、ちょっと姿を消すだけでしばらくすると平然と現れてくる。
絶対に死ぬことがないという事実があるからこそ、彼は負けが込んでも余裕があり仲間のサンドバックにされようとも不敵な笑みを崩さないのだ。
スターからも「彼は何があっても死ぬことはない」と笑って太鼓判を押されるほどの不死身。
直接の戦闘力は上位陣と比較すると劣っている点は否めないが、不死身でカバーしているのだ。
今回の戦闘でも同様だ。
全身を貫かれ地面が真っ赤に染まるほどの大量出血をしてもなお、地の底から響く低音の笑いが止まることはない。
改めて目の当たりにするタフネスに戦闘を見ていた美琴は戦慄していた。
「どうされましたかな。流動人間とやら。お前の攻撃がこの程度とは恐れ入る。
もっと吾輩を楽しませてくれれば、少しは生きる価値もあるといえるものを」
煽りながら身体に刺さった槍を引き抜き、剣を握って前進していく。
流動人間は通常の人間なら即死なところを予想外の出来事を前に激しく動揺。
全身をプルプルと震わせる様は怒りか、悔しさか。
両腕を合体させたハンマーでジャドウを穿つもジャドウの頭部はすぐに再生して、悠然と歩を進めていき、再び斬撃を開始。
自分の攻撃が通じないことを悟ってか、地団駄を踏んだかと思うとパッと跳躍し橋から海へと飛び込んだ。
「自分から最期を迎えてくれるとはありがたいものですな」
「違う。あのガキを逃がしたんだ。ジャドウ、どうしてくれるっ」
不動が詰め寄るとジャドウは涼しい顔で。
「これだから不動は困りますな。吾輩が何の手も打たずに逃がすとでも?」
「それでは作戦というのか」
「左様。獲物はただ倒すだけではつまらぬ。徹底的に追い詰め絶望させたうえで倒さねば、楽しくはなかろう。吾輩が常に先を読んで戦闘をしていることをお忘れですかな?」
「ジャドウさん、彼に何かしたんですか?」
「戦闘中に吾輩の細胞を奴の身体に埋め込んだのだよ。したがってどこへ逃げようとも必ずわかる。決して外れることのない監視装置に怯える奴の姿を想像すると心が躍りますな」
思い切り口角を上げて笑うジャドウの顔は歓喜に染まっている。
不動で倒せないなら自分が行き、逃走することも計算に入れる。
二重三重に罠を張り巡らされるやり方は不動や美琴にはできない。
純真な美琴は狡猾なジャドウに背中に冷たい汗を流すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます