第8話 不動とジャドウの猛攻

「みなさん! 離れてくださいっ」


現場についたと同時に美琴は背後にいる民間人や警察に呼びかけた。

スター流はその戦闘力故に大規模なものになりがちであり、様々なものが破壊され巻き込まれる可能性が高くなる。それを防ぐためにも事前の避難は大切なのである。

警察の誘導によって人々が離れていくのを確認してから、美琴はほっと息を吐きだし胸を撫で下した。心優しい彼女は犠牲を最小限にとどめることを優先している。

相手を見据え格闘の構えをとるが、彼女よりも前に出たのは不動仁王だ。

彼は好戦的に笑って言った。


「ガキは俺が往生させてやるっ」


突進して剛腕を振るう不動だが、流動人間は素早い動作で回避。

拳が触れた地面に亀裂が走り、橋に大ダメージを与えていく。

不動の戦闘力は流派の中でも抜きんでている。

彼がひとたび戦闘をすれば非常に大きな被害が出るのだ。

頼もしい反面、その威力の高さは悩みどころでもあった。

戦闘慣れしていない流動人間の腹に不動の拳が着弾すると全身に波紋が広がる。拳から生み出された衝撃波の影響が流動人間の背後のビル群まで影響し、遠くの道路に亀裂が走りビルの窓ガラスが割れていく。

回し蹴りを脇腹に入れ込むが流動人間は命中すると同時にぐにゃりと体を変形させて受け流していく。

前蹴りを打ち込むと腹部に穴が開いたものの、それを瞬時に収縮することにより不動の足の動きを抑え、無防備となった彼の顔面に水の打撃を放つ。

が、不動は微動だにせず。


「お前如きガキの打撃など俺には効果なしだっ!」


頭突きで反撃し間合いをとったところでタックルで吹き飛ばし、両の拳を重ねて拝み打ちで頭を狙う。すぐさま頭部を変形させて威力を分散する流動人間だが、間に合わず痛烈な一撃を受けて地面に這う結果となった。

続いて踏みつけが迫るも分裂して回避し、再び集結する。

橋が揺れる感覚に美琴が言った。


「不動さん、今は下がってください! このままでは橋が壊れてしまいますっ」

「……わかった」


深い息を吐いて美琴の指示に従う。不動も長年の経験から攻撃力で上回ろうと直接的なダメージを与えられない自分では、被害ばかりが増えて分が悪いと判断したのだ。

スター流は世界各国から地球の平和を守る組織として認知され超法的存在と位置づけられている。戦闘でどれほどの人数が殺められようと被害が出ようと許される。

もっともそれは彼らの桁違いの戦闘力に恐れを抱いていることもあるし、彼らの頂点に君臨するスターの時間操作による修復力の影響も大きいが、あまりに派手に暴れるとスターへの負担を増やすことに繋がり、日頃から後先考えずに暴れて莫大な被害を出している負い目も手伝ってか、不動も過剰な破壊は控えなければと感じていた。

不動が下がるとジャドウが一歩前に出てノーモーションによるサーベルでの突きを見舞う。

サーベルは突くよりも斬ることを得意とする武器だが、ジャドウはレイピアのように突きとしても使用している。一瞬、小さな穴が無数に開くもののすぐに塞がる。

ならばと斬撃を浴びせるが相手は水のようなもので全く反応が鈍る様子がない。流動人間は両腕を無数の触手に変化してジャドウの細い手足に巻き付き動きを抑える。

そのまま締め付けを強くしていくが、ジャドウは喉奥から不敵に笑うばかりだ。

彼の態度に苛立ったのか流動人間は腕を槍に変えてジャドウの胸を一閃。

更に無数に枝分かれさせた腕で全身をハチの巣のように貫いていく。


「ジャドウさん!」


美琴が叫ぶが、ジャドウは大量の血を噴き出し、口からも吐血しながらも笑っていた。

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