第2話 美琴の決意とスターの疑問

「で。ムースとしばらく離れて暮らす、と」

「はい。彼女はひどく落ち込んでいましたけれど、今のわたしたちにはこれがいちばんいいんです」


スターコンツェルンの地下六階にある特訓場で美琴は不動と話していた。

久しぶりに鍛錬をして鍛えてから雑談の流れとなり、自然とムースとの関係を切り出した。

不動は鋭い眼光で美琴を一瞥して少し思案してから告げた。


「ムースを守るためなら最善の策だろうな。今度のガキは厄介だからな」

「スターさんから話は聞いています」


数日前、アメリカの研究室から液体生物が脱走したとの情報が流派に伝わった。

黄金色の液体生物は自由に姿を変化できる性質を持ち知能も高く、ブティックに人型で入店して大暴れをし、駆け付けた警官を圧倒している。

警官でも対処不可能と判断した地元警察はスター流に依頼を出し、スターの要請ですぐさまロディが派遣されたが、下水道やわずかな隙間でも侵入できる生物『流動人間』――という仮称を与えられた――はロディの巧みな拳銃の腕前でも倒すことはできない。

どれほど銃弾を撃ち込まれようとも柔らかいボディに吸収してしまいダメージはないのだ。

愛馬で追いかけても徒労に終わり、いつの間にか逃げ場を塞がれて追い詰められ、逆にロディが負傷する結末となってしまった。

そこで他のメンバーの出撃が決まり、会長室へ集まることになったのだが、美琴はムースと一緒に来なかったのである。

不動と共に会長室に赴くと、スターが相変わらずの微笑を浮かべて歓迎したが、彼は何でもない風にたずねた。


「今日はムースちゃんはお留守番かな?」


美琴は低い声で言った。


「今回はそのほうがいいと思ったんです。相性がよくないですから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る