9

 深夜の時間は長い……長いようで、短いようなもの。俺は死霊術師である彼女の「記録」に目を通してみたら、間もなく朝の時間になった。


 太陽が完全に昇っていない若干紫色に混じっている深夜の時間帯。もうこんな時間だという感想は、過去の人生ではあまりなかったが、それほどの文章量だ。あっという間というのがまさにこれのこと。


 特に書き方とまとめる感じは、あまり読書していない素人の俺でもちゃんと見えるようになるし、見やすいものだ。素直に感心する……はずだった。


 そう。もし見ている人は俺でなければ……


「……最初から、見抜かれたんだ。」


 死霊術師(ネクロマンサー)。


 これを聞くと、大体の人はこんなイメージが浮かぶ――死者への冒涜する職業だと。「アンデッド」を作って、世界を荒らす人達だと……


 つまり、いい印象がないヤツら。俺も当然、そんな印象を持っている中の一人だ。じゃないと、これらのことを知れるわけがない。


 では、いい印象を持っていないヤツに、人は素直に全部の事実を言い出せるのか?ない。少なくとも、俺にはできるわけがない……


 彼女が言っている「未練」に、俺は嘘をついていない。


 冒険したかった話は、子ども頃の夢だ。


 冒険者たちの話を聞くと、憧れを持ったのも本当だった。


 疑問を感じたのも本当……ただし、それらのことは、成長していくにつれて……


「家庭」を持つことに連れて、「大人」になったのだ。


 俺が冒険したかったのは、俺は冒険について知りたかったのは……ただ自分がやりたかったということではない。


 その「価値」が、知りたかった。


 妻は、冒険者だった。彼女は大遠征の戦役で、乱戦中に死んでいた。


 俺は反対したが、娘も、冒険者だった。けど、彼女はたった一回の冒険の旅で、偵察中に魔物に襲われて、死んでいた。


「冒険」とは、何なんだろう?


 大切なものが失われていくほど、冒険の「価値」は一体どこにあるのだろう?


 俺はやはり、未だにわからない。


 だから、俺は冒険したかった。


 自ら冒険することによって、その答えがわかるようになるかもしれない……と、これがなぜ、無様に山の獣道に死んでいた俺の原因だ。


 俺は視線を彼女のほうに移した。まだ就寝している彼女の寝顔を見て、俺は俺に関する記録のものをこっそりと彼女の近くの床に置いた。


 もう、関わらないようにしよう。


 特に最新の付け足しでは、彼女は「俺の娘」に騙ろうと書いてあった。


 どういうわけかわからないが、恐らく彼女は俺が娘の顔を覚えていないと想定しているんだろう……


 でも、俺はちゃんと覚えている。死んでいた妻の顔も、冒険者になって以来の自分の娘の顔も、ちゃんと覚えている。


 彼女はいい人だ。いい人だからこそ、本当に俺の娘に騙ってきたら、お互いにとって良くないことだと思う。


 失礼な上に、反応も困る。


 だから……


 俺は離れる。


 離れ……たかった。


「もう、行くつもりですか?」


 俺が離れようと数歩を歩いた時、後ろから声が伝わってきた。

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