8

 これは、とある観察記録である。


 記録は一枚一枚の紙で小さな本のように積み重ね、内容はつらつらと綺麗な文字が並べている。文書の作成から、またまとめる格式から、資料を書いている本人の性格が几帳面な部分が見える。


 そして、資料は特にタイトルがないが、付箋のような小さいものが張られて、「バルード」という文字が書いてある。記録の内容もほとんど「バルード」に関するものだった。


 会話、行動、本人の思い出、一挙手一投足、気持ち悪いくらい細かく記録されている。


 そして――


 XXX.XX.XX


 バルードさんの遺骸が見つかった。死亡の場所は山の獣道。山で死んでいたことから、恐らく動物によっての衝突の意外、あるいは他の衝撃で致死だと思われる。


 ……


 今日で儀式を行おうと思う。


 XXX.OO.OO(初期)


 本人はまだ意識していないだろうか。それとも、隠しているだろうか。もしそうであれば、本人に心を開かせる必要がある。


 まだ、時間がある。


 XXX.OX.OO(山の日)


 ……


 山を登って、本人は自分の立ち位置に少しずつ受け入れているようだ。こうして、少しずつして、たぶん心が開いてくれるだろう。


 その時、“本当”のことが聞けるはず。


 ――記録の最後に大体付け足しの部分がある。


 付け足しの内容は年月のことまで書いていて、一目で見れば日記だと思われる内容だが……記録の内容と同じ、付け足しの内容も何の感情も感じられない。まるで別の記録体にするだけだった。


 特に、最新の日付に、こういうものが書いてある。


 XXX.OX.OX


 ……


 本人はまだ本当のことを告げてくれないようだが、もうすぐ心を開いてくれるそうだ。それでも、少々時間が経ち過ぎた。


 明日、もしまだ話してくれないなら、「彼の娘」として騙ろう。


 彼に、気付かせる必要がある。


 少し、時間がかかりすぎた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る