第3節 最終決戦③

「アシストフォース、ミニガン!」


 激しい銃撃の音が断続的に鳴り響く。当たれば肉を刳り骨を砕く、高威力の弾丸が雨あられと撃ち出される。


 ……そんな物理的威力など、ブライトにとっては何の驚異にもなりはしない。


 いずれも彼女に当たる寸前で空中で停止。勢いを失い、地面に落ちていく。


「ふむ……今さらこんな攻撃が効くとも思っていないだろうに。君の狙いは何かな?」

「さぁな! アシストフォース、加速弾!」


 自分自身に弾丸を撃ちこみ、思考と運動速度を大幅に上昇させる。


 加えて、アシストフォース――「すべてを切断する弾丸」。それを両手の指先に浮かび上がらせ、接近戦を仕掛ける。


 本来「すべて」だの「なんでも」だのといった効果の弾はコストが激しい。だが弾を撃たない近接戦闘であればその影響は無視できる!


「行くぜ……!」


 速度を向上させた俺は、瞬時にブライトの目の前まで駆け寄り、指先の弾丸でその体を切り裂こうとする。


「わからないな……」


 その指が命中する寸前、今まで止まっていたブライトが高速で動きだす。近接攻撃を難なく回避したあと、俺の肝臓あたりに2発、重いパンチを入れてくる。


「がふっ!」

「さっきまでとは違う。攻撃に『熱』を感じない。そもそも命中させるつもりがないかのように」


 意識が逸れていたことに気付かれたのか? ……まずい。今はまだダメだ。攻略法に先に気付かれたら負ける!


「本命はこっちだ!」


 近接攻撃に留めることでコストを踏み倒していた、「すべてを切断する弾丸」をブライトに発射する。


 光となって迫る弾は、しかしブライトに命中することは決してない。その体に命中する寸前で弾丸が折り返し、こちらに向かってくる!


「うっ……!? ぐああぁっ!」


 咄嗟に弾丸を両手で受け止めた。両手首が切断され、体を貫いて俺の体を抜けていく。


「ぐ……はぁ、はぁっ! 回復弾……!」


 改めて両手を生やす俺を冷めた目で見つめるブライト。それは軽蔑というよりはむしろ、寂しげですらあった。


「解せないな。君は私を止めに来たんだろう。殺してでも」

「……っ」

「なのにさっきからやっているのは、殺す気もない自滅ばかりだ。見てみなよ。床じゅう君の手だらけじゃないか」


  眉をしかめて、彼女はそんな苦言を呈した。たしかに、俺がリロードで切り落とした手があたり一面に転がっている……。


(……気付くなよ)

「君、もしかして――」

(気付くな……俺の狙いに――!)

「……私がまだ、『ルカ』だとでも思ってるのかな?」


 ……彼女の嫌疑は、俺の危惧とは別の方向へと飛んでいった。


 これはチャンスだ。俺の本当の狙いに気付かれないように、その疑惑に乗ろう。


「……当たり前だろ。同じ姿なんだ」

「はぁ……。やれやれ。世界を塗りつぶすのを止められるとしたら、君しかいないというのにね」


 その憂いの表情に偽りはない。俺はさらに「時間停止弾」を撃ち込むが、やはり撃ち落とされる。片手を切り落として再生する……。


「仕方がないね。君があくまで本気にならないというなら――私が先に、君を殺す」

「いいや。それはもうできないな」


 今の手のリロードで、おおよそ準備は完了した。最後の最後の、最後の切り札の準備がな。


「正直どうやったって、ダンジョンの中ではお前に勝てない。認めるよ」


 これは事実上の敗北宣言だ。色々やってみたが、概念に関する攻撃をしてもすぐに対応されるだけ。


 弾として撃たなければ効力を発揮しない俺に比べて、ノーアクションでどんな現象でも起こせる「ダンジョンルーラー」は強すぎる。勝てやしない。


「へぇ。なら……」

「だが戦い自体を諦めるわけじゃない。――接続弾!」


 右手から、俺の「落ちている左手」に向けて光線を撃つ。その左手から別の落ちた手に光が繋がり、またそこからさらに派生。


 捨ててきた大量の手を点として、網目模様の光がダンジョンの床に描かれる。


 これにより、捨てられた手は一時的に、再び俺の手として弾丸を放つ。


「これは――」

「多重・ダンジョン破壊弾」


 大量の手が一斉にダンジョンの床を指さす。そこから、先ほど撃ったダンジョン破壊弾が大量に床に撃ち込まれた。


 この量ならば、さっきと違い床を崩落させられる。大穴が空き、ブライトが穴に飲み込まれた。


「ハッ……何をするかと思えば! 穴なんかに落としたところで意味はないと言ったろう!」

「あぁ。だから穴に落とすのは本命じゃない」


 その姿が、俺の視界から消える。すなわち、彼女もまた俺の姿を視認できていない。


 「これ」をやるには、何としてもブライトの目線と意識を逸らす必要があった。この技の危険性は、お前が一番よく理解している。見ればどんな手を使ってでも止めただろう。


 ――俺は両手の親指と人差し指で、長方形を作る。


 人差し指を起点として金色の光が満ち、みるみるうちに大きくなっていく。


「なっ、この光はまさか!?」


 穴から高速で浮上してきたブライトが、金の光を見る。


 そうだ。これこそ、もう1人のお前が俺に教えてくれた力。


「アシストフォース――強制攻略弾」

「馬鹿なっ……!?」


 光がすべてを飲み込んでいく。直接この目で何度も見ていなければ、こんなふうに再現することはできなかっただろう。


 これで、ダンジョンでの戦いは……終わりだ。

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