第2節 最終決戦②

 倒れたブライトの姿を見下ろしなから、俺は両手をすばやく切り落として再生。


 少し移動してから「過去に向かって」弾丸を放つ。淡い光とともに弾丸が消え、過去に向かった。


「……さて、ブライト。立てよ。こんなんでくたばるわけがないだろ?」

「……フフフ」


 黒いローブがうごめく。ゆっくりと起き上がってくる。一応脳をぶち抜いたんだけどな。


「君の発想力に敬意を評して、回復の時間をあげたんだよ。時間……時間、か」


 ギラリ、と緑の光を放つブライトの目。その光が――


 ――消えると同時に、俺の左胸が強烈な熱に包まれる。


「あ……?」


 自分の体を見下ろすと、そこには何か長いものが突き刺さっていた。金属の、ポールのようなものが――理解と同時に激しい痛みが追いついてくる。


「ぐあっ……な、なにぃ!?」

「君の回復を見ていて思ったんだよ。回復する場所に邪魔なものがあったら、果たしてそれは完全な回復ができるのかどうか……」


 ブライトの声は背後から聞こえてきていた。テレポートか? 痛みで視界と音が歪む。


 そんでもって、ヤツの読みは当たっている。こうまで体に異物が侵入していると、回復しようにもできない。まずはこのでかいポールを引っこ抜かなければ!


「アシストフォース、磁力弾ッ……!」


 動く右腕で強力な磁力を撃ち出す。体が引っ張られ、左胸を貫通していた金属が引き抜かれた。


「ぐああっ……! 回復弾――」


 そのまま自分の体に指を向け――


 ――直後に再び、体に何かが突き刺さる。それも今度は2本。腹と左腕を貫かれている。


「がはっ……!」

「回復を阻害していれば、君は出血多量で倒れる。君との決着も楽につくんじゃないか?」

「はぁ、はぁ……! どうだろうな!」


 回復よりも優先すべきことがある。先ほどから何の前触れもなく体に突き刺さってくる、この武器による攻撃の謎を解くことだ。


 とはいえ、ヤツはこの攻撃が始まる前に「時間」がどうのと言っていた。となれば、加速か減速か。または――


(いや。その可能性が最も高い。……時間停止か)


 俺の時間を止めているのか、ダンジョン全体の時間を止めているのか。


 それはわからないが、ブライトのワープと武器を突き刺すこの攻撃。


 そして先程の2本――全く同時に体深くに突き刺さった「2本」の武器。そのヒントが示すブライトの攻撃こそ、時間停止。ならば!


(アシストフォース――!)


 こめかみに指を当て、特殊な弾丸を発射する。それから、体に突き刺さったポールを引き抜いた。


 熱さ、痛み、減っていく血液。それらが他人事のように感じられる。


「回復弾――」


 その傷を治そうとした瞬間、周囲が突然暗くなった。


 いや、暗くなったのではない。目に映るすべての色調が反転しているのだ。流れる俺の血液が空中で停止している。時間が止まったようだ。


 そんな中、ブライトがゆっくりとこちらに歩み寄る。彼女が指を鳴らすと、空中に尖った長い金属片が形成されていく。


 それを手に取り、こちらに歩み寄る。そいつを構え――突き刺す寸前、俺の体が動き出す。


「なっ」

「アシストフォース!」


 咄嗟だったせいで何の弾か設定する暇もなく、ただ弾丸を撃ち込んだ。とはいえ狙いはある程度正確。胴体に命中させたはずだ。


「これはこれは。さっき撃ったのは時間停止に適応する弾丸か……」


 数歩下がって膝をついたブライトが不敵に笑う。彼女が撃たれた胸のあたりに手をやると、銃創はすぐに消えた。


 俺も同じように回復弾で体を治す。これでお互い無傷。振り出しに戻ったな。


 この調子で攻防を繰り返したところでジリ貧だ。こうして何度か能力を使ってわかった。やはり俺の弾丸より、ブライトのダンジョンルーラーのほうが能力の応用幅が圧倒的に広い。


 今はまだ発想力で戦力差をカバーできているが、もう何度か繰り返せば勝つのはブライト。それはもう間違いない。


 どうすればその前にブライトを攻略できる? どんな弾が必要だ? 何を撃てばこいつを倒せるんだ?


 これまでの階層。これまでのダンジョン。ヤツの能力。全てから考えなければならない。戦いを終わらせる手段を――。


(……あ)


 そうか。わかった……かもしれない。こいつを倒す手段。戦いを終わらせる方法を。


「アシストフォース! ダンジョン破壊弾!」


 ブライトの足元を狙って弾丸を放つ。床が砕け、底なしの穴が見える。


 しかし弾丸の強度が不足していたのか穴はごく小さなもので、ヤツの体を落下させるには至らなかった。


「落とし穴かな? 無駄なことを。いまさら私が穴に落ちた程度で何が起こるというのかな」


 冷笑とともに指を鳴らすブライト。お返しとばかりに、俺の足元に亀裂が走る。そのヒビから光と熱が漏れ――


「うおっ、と!」


 次の瞬間には火柱が上がる。辛うじて飛び退いたが、立っていたら丸焦げだったな。


「さぁて。次は何を試そうか。じっくりと君を攻略していくとしよう」


 本心か否かはわからないが、ブライトはそう言って笑う。


 ――俺がすでに、このダンジョンの攻略法に気づいたことも知らずに。

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