第3節 デート、■りの世界③
「おっ、見てみてセイジ君! アレあるよ、ゾンビ撃つやつ!」
やっていこうよ〜、と袖を引っ張るルカ。その先にはゲームセンター。床だの筐体だのの色が鮮やかだ。
さっきまでの映画館やフードコートに比べて、より若い人が集まっているようだ。色んなゲームの音が混ざりあってガチャガチャ鳴っている。
彼女が指さしていたのは、マシンガン型のコントローラーで画面内のゾンビを撃つガンシューティングゲームだ。
「セイジ君上手いでしょ? 銃の能力なんだし!」
「多分ある程度はうまいと思いますけど……普段は指だけで狙ってるから、銃はどうだろうな」
と言いつつ、正直なところ俺は自信があった。実戦経験のある俺が今さらゾンビ程度に遅れを取るはずがない。100円を入れ、ゲームを開始する。
「よっと……。ん? あれ?」
「うお〜! ゾンビめっちゃ出てきたよー! セイジくーん!」
「ちょっ、ちょっちょっと待っ……エイムが合わないぞ!」
俺のマシンガンの照準は明らかにズレていた。銃口を向けた位置から、思いっきり右上に照準が表示されているのだ。
「やばいですよ! 俺の銃右上しか撃てない!」
「な、なにー! どうすんのそれ! 私ひとりじゃ到底勝てないよ!」
「情けないこと言わないでくださいよ!」
俺は四苦八苦しながらなんとか照準をゾンビに合わせようとする。
銃口から右上にセンサーがずれてしまうのなら、銃のほうを左下に向ければちょうどいい位置を打てるようになるかもしれない。
そう思って思いっきり銃を左下に向ける、が……。
「だ、だめだ! 今度はセンサー外に行っちゃって撃てなくなる!」
「ひぃ〜、なんかめっちゃ殴ってくるよぉ〜!」
検証の結果、銃そのものを左下に向けすぎるとそもそも撃てないことが判明。
つまり結局、中央から右上あたりを撃つことはできるものの、左とか下のゾンビは一切撃てないということだ。整備しておけよこれくらい!
「くっ……しかし中央の敵は工夫すれば撃てる!」
俺も照準のズレに慣れてきて、ある程度は狙った位置を撃てるようになった。ヘッドショットを連発し、続々と敵を倒していく。
「ルカ先輩! 俺が撃てない左下を頼みます!」
「おぉ!? おっけー、よくわかんないけど任せといて〜!」
そのまま協力して、山のように押し寄せるゾンビを撃っていく。だがやはり右上にズレすぎな照準と、さほど上手くないルカの射撃で何度かコンティニューさせられた。
「うわ〜! 百円玉がない! ちょっと両替しに行ってくる!」
急いで両替機へと走るルカ。その間1人で耐えなければならない俺。おそらくラスボスであろう、氷でできた肉体を持つクリーチャー。
「まずい! 左下に敵がっ……あああ!」
最後のライフがなくなった。コンティニューのカウントダウンが始まる。2人ともゲームオーバーになったらゲームの進行がパアだぞ!
10、9、8、7、6、5――!
「おまたせー! うおー、コンティニューだ〜!」
「ナイスルカ先輩!」
そんなこんなで。復活したルカのおかげでコンティニューは間に合い、俺も復帰!
「あともうちょい! もうちょいで倒せるよ!」
「うおおおっ、中心……! ちゃんと中心に来い! っ、よっしゃあ!!」
「やったぁ〜〜!!」
無事にラスボスを撃破。画面でエンディングが流れる傍ら、俺たちはハイタッチして勝利を喜んだ。
■
「たまには苦戦するのも面白いねぇ。ホラ、私たち異常空間だと無敵だからさ」
「まあ確かに、刺激的ではありましたけど。だからって命懸けの場面で苦戦はしたくないっすよ」
それもそっかー、と笑いながら隣を歩くルカ。彼女の歩幅は俺より狭い。そのため、俺は歩く速度を調整しながら隣にいる。
普段は格好よく敵を倒し、俺を助けてくれるルカ。その一方で彼女は、確かに女の子なのだとふとした歩きから認識させられる。
……こういう、ふとしたことからドキドキさせられる。いつの間に俺は、こんなに彼女に惚れていたんだろうな。
「ル……ルカ先輩」
「ん? なぁに?」
「このモール。屋上にちょっとした展望台っていうか……景色がいいところがあるみたいですよ」
「おー! いいね、行こっか!」
屈託のない笑顔で歩いていくルカ。その背を見つめながら俺は――視界の端に何者かを捉えた。
灰色のダウンを着込んだ、俺より一回りくらい背の高い男。目元に三本の傷がある――
「あ……?」
アレは……俺? いや、違う。傷は同じだが年齢が違う。俺はあんなにオッサンじゃない。
とはいえ、髪の色や雰囲気、何よりあの傷がそうそう被るわけがない。何が起こっている!?
男はそのままゆっくりとこちらに近付いてくる。その表情は影に覆われてわからない。
「目を……覚ますな」
「! お前はさっきの……?」
さっきかすかに聞こえたのと同じ声、同じ言葉。俺に声をかけてきたのはアイツだったのか?
「何なんだ、お前は!? 何者だ!」
「……考えるな」
「え?」
「俺は、ここで……いいんだ……」
男が俺の肩に手を置き、どこかへと歩き去っていく。振り向いたときには彼は消えていた。
……さっきから、何か妙だ。おかしなことが起こっている。さっきの錠剤にしたってそうだ。
俺はさっき錠剤を入れたポケットを探る。手に伝わる感触は、2つ。
取り出してみると、錠剤は2つに増えていた。赤い錠剤と青い錠剤。さっき見た映画とまったく同じ。
「…………」
「セイジくーん? はやく行こうよ〜」
「あ……あぁ、はい!」
俺はエスカレーターに向かって走る。心臓が激しく脈打っていた。
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