第5節 ボスラッシュ②
「おんぎゃああ、おぎゃああ」
「まったく、うるせぇな。アシストフォース、解析弾!」
こめかみに指先を当て、弾丸を放つ。視界が複雑な色に満ち、情報量が一気に増えていく。
気温だの湿度だのといったどうでもいい情報もよく見えるが、重要なのは敵の詳細だ。
異常実体、『名称指定なし』。つまりASSISTの誰もこいつを規定していないし、ダンジョンでこいつを発見した人間もこれまでいなかったってことか。
相当なレアモンスターなのか、それともコイツはマジで特別な存在なのか?
ハイハイするようにして、赤ん坊はこちらを手で潰そうとしてくる。
それをあるいはバックステップで避け、あるいは弾丸で手を撃ち抜いて牽制し。そうしながら敵を見続けるうちに、だんだんと解析の精度が高まってくる。
「口の中にドア……アシストフォース『ダンジョンルーラー』によって強化されている、だと?」
「別にそれくらいいいじゃないか。そのままにしてたらどうせ君が即死弾かなんかで勝ってしまうんだから」
舌打ちしながら分析を続ける……が、それ以上は有益な情報が得られそうになかった。
どうも、奴のアシストフォースによって赤ん坊の分析の一部がカットされているようだ。本来見えるはずの弱点や倒し方が出てこない。
「……即死弾が効かない。つーことは、命が複数あるとでも言うのか?」
しばらく避けていたおかげで、即死弾による能力のクールタイムは半分ほどは消化できた。これ以上避け続けるのはさすがに困難。もう一度打って出るしかない!
「アシストフォース! 内部破壊弾!」
即死弾よりはコスパの良い弾丸を、正確に赤ん坊の眉間にぶち込んだ。大きな目がこちらを見つめたかと思うと、ギョロギョロと回転する。
「ぎぃやぁぁぁあああ……」
その両目から血が迸り、赤ん坊がその場に倒れ伏した。……とはいえ、明らかにまだ倒せてはいないはずだ。
これで倒せるのなら、さっきの即死弾でとどめを刺せていた。コイツの復活条件を見定める。
しばらくの沈黙と無音。……やがて、頭にぶち込んだ銃創が、内部から塞がっていくのが見えた。
「――おぎゃああああ、あぎゃぁぁあ!」
クソッ、駄目だ。見切れない。コイツが復活する「理屈」が理解できん!
直後、赤ん坊の太い指が俺の体に真横から迫り、叩かれ、吹っ飛ばされる。
「ぐっ……! チッ!」
「おやおや。セイジ君ともあろうものがこんなのに一撃食らってしまうとはね。早く本気を出したほうがいいんじゃないか?」
壁に叩きつけられた体を軽く動かす。骨は折れていない。内臓も無傷か。体は痛むが、回復弾はまだ必要ない。
(考えろ! どうすりゃ弱点を見抜ける。動体センサーか? 温度センサー?)
俺自身に弾丸を撃ち込むことで、そうした特殊技能を一時的に身に着けることはできる。
だがただの攻撃でない弾丸は消耗も激しくなる。総あたりで試すのは無理だ。先に弾が撃てなくなるだけだ。
(だが、そもそもおかしいんだ。即死弾は、その名の通り相手に死を与える力そのもの。多少再生機能がある程度でどうにかできるわけじゃない)
つまり理屈から考えれば、コイツは死んでも蘇生される。それも何度も、何度でも。
(不死――不死身?)
そんな敵が出てきたことはあまりなかったが、「不死身」と来たか。なら――
「アシストフォース――!」
「へぇ。次は何を撃つのかな? 能力の残量も見ておいたほうがいいんじゃない?」
左手は完全に黒くなっている。右手も各指の第2関節くらいまでは黒くなっている――特殊な弾丸が撃てるのはあと1回くらいだ。
「――銀の弾丸」
これも特殊な弾丸ゆえに、俺の右手全体が黒くなる。これで両手が戻るまでもう弾丸は撃てない。
放たれた弾は銀の光を放ち、再び赤ん坊の眉間へと吸い込まれる――地響きとともに巨体が倒れる。
しばらく待っても、奴が起き上がってくることはない。その体が赤く朽ち始め、肉塊になって溶け落ちる……その中から大量の宝石と、直立したドアが出てきた。
「銀の弾丸ね……私の想定した答えじゃないが、倒せてしまったものは仕方がないか」
銀の弾丸、あるいはシルバーバレット。小説などにおいて、不死身の吸血鬼や狼男を打倒するための特別な弾丸だ。
それはただ単に狼男やらを破る弾丸というものではなく、転じて「不死を破るもの」。不死身の敵を打倒する手段、その象徴として用いられる。
どういう理屈で不死身なのか、なんて関係ない。不死身なら、不死身を仕留める弾を使うだけだ。どうやら上手く行ったらしいな。
「しかし幸い、もう1つ見えてきたよ。君の能力が」
「何だと?」
「どうやら君は、まったく同じ弾丸を連続で使うことができない――あるいは、連続で使うことにペナルティがあるね」
「……!」
……図星だ。俺が弾を打ち分けているのは、気分でそうしているわけじゃない。
強力な弾丸を連続で使用すること。それを行うと、手の黒化……つまり、能力の使用限界が早くなってしまう。
こういう能力のデメリットは、多くの場合「これくらいのデメリットはあって然るべき」という自分自身の思い込みから来るものだ。例に漏れず、俺にもブレーキはあった。
「アシストフォースのデメリットとは、自らの力を信じきれない心の弱さから生じる。
とはいえ、『デメリットもあるからこそ、自分の能力はより強力なはず』という無意識から、その分能力が強化されることもあるようだがね」
かつて彼女がしてくれたような能力講釈を聞き流しながら、俺は飛び出してきたドアのノブを捻る。
「しかし、十分な手の内が見れたとは言い難いね。それは君にとって朗報だろうが、果たして手抜きのまま次の階層を攻略できるかな?」
「ほざけ。何が来ようがぶっ倒してやるよ。……お前もな」
「それは楽しみだ――」
そう言ってブライトはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。第3階層、折り返し地点。
次は、何が出てくる?
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