第12節 第2ラウンド

「セイジ君の弾ってさ。よく見たら階層ごとに種類が違うんだよね」

「え? ……そうなんすか?」


 指から出てる弾の種類なんて気にしたこともなかった。というか何で撃たれた弾が見えるんだよ。


「アシストフォースの強さはね。自分の解釈次第で能力を拡張したりもできるところなんだよ」

「能力を拡張……?」

「そう。『もしかしたらこれもできるかも』って試していくこと……それが能力を拡げて、強くなる方法なんだよ」


 弾丸の種類。能力の拡張。


「今のセイジ君は漠然とただ弾を撃とうとしてるから、とりあえず『弾』みたいなやつしか出せないんだと思う。

 だけどすこし頭を切り替えてみたら、もっと能力の幅が広まるかもよ?」

「頭を切り替える、ねぇ……?」


「そうそう。その気になれば劣化ウラン弾とか撃てるんじゃない?」

「女子のチョイスとは思えない弾ですよ。ていうか、たしか核物質ですよね。撃った俺が無事ですまないでしょ」


 けらけらと笑うルカの顔。……その気に、なれば。能力。拡張。弾丸――。



「今まで試そうと思ってもなかなかうまくいかなかったんだけどな。

 死にかけで意識が朦朧としてたのが効いたのかもしれないが……撃てたんだよ。別の弾――『回復弾』をな」


 俺は銃の形にした手をこめかみに当てるジェスチャーをする。まさにこんなふうに、さっき「回復弾」を撃ち込んだところだ。


 正直なかなかに恐ろしい光景だった。目の前に自分の下半身があるのに、切断された腰から新しい下半身が生えてきたんだからな。


「あんたには感謝してるよ、足柄さん……! おかげでアシストフォースの本質を掴むことができた!

 どこまで俺の能力を伸ばせるのか、今から楽しみで仕方がない!」


 一度死にかけたからか、自分のテンションが上がっているのがわかる。


 最高の気分だ。清々しい気持ちだった。自分の能力や才能が優れたものだと確信するのは!


「解釈によって能力を拡張したのか。しかし……それは優れたアシストフォース使いなら皆やっていること。

 無論私もだ。そう簡単に通しはしない。もう一度仕留めてやろう……!」

「あんたには無理だ」


 足柄さんが再び腰を落とし、居合の構えを取る。……見える。相手の能力がはっきりと。


 次元斬は何でも切断できる能力。彼はその能力を拡張して、「空間」を斬ることで瞬間移動のような高速移動や斬撃を飛ばすことが可能だ。


 彼の以前の説明はまんざらすべてが嘘ってわけでもない。次元斬発動までにタメが必要なのは事実だ。


 本当は、「斬る対象」に応じて溜め時間が変わるというもの。空間を斬ったり、ものすごく硬いものを斬るためには時間がかかる。


 一方、人間の体のようないくらか斬りやすいものを斬るために必要な時間はそう長くない。俺がさっき斬られたのはそれが原因だ。


「全部……見える。これが『解析弾』の力ってわけだ」


 解析弾は回復弾と同じように、自分に撃ち込む弾丸だ。おそらく一定時間だけではあるが、相手の能力や詳細がわかるようになる。


 彼は再び次元斬を溜めている。だが溜め終わりまでにまだまだ時間があった。


「アシストフォース――」


 次元斬の溜めが、強制的に解除される。足柄さんが顔を下に向ける。その腹部に風穴が空いて、白いシャツが赤黒く染まっていった。


「――無音無光弾」


 咄嗟にやってみたが、うまくいった。音も光も発さない、感知することが不可能な弾丸だ。


 弾丸は誰にも知られることなく彼の腹を抉り、そして消えていった。


「……そうか。そうか……」


 足柄さんはなにか納得したような言葉を吐くと、その場で崩れ落ちた。


「終わりだ、足柄さんよ。結局何がどういう事だったのか、きちんと話してくれ」

「……言うことは、ない。ただ、金と……名誉のためだ。この宗教の、中でなら……私の力も、評価される……」


「何をそんなに隠したがってる? アンタはそんな人間じゃなかったろ」

「いいや……本心だ……。大人は、子供の前では……格好つけたがるものだよ……。

 私は所詮、ただの、小悪党のようなものだった……。どうか、私のことは、忘れてくれ……」


 こりゃどうしようもない。とにかく迷宮教に入って暗躍しようとした理由を答えるつもりはないらしい。


 仕方がない。人を殺すのは本意じゃないし、さっさと回復弾を撃とう。人差し指を向ける。


「……覚えておいてくれ。

 真実を知っても、人は。幸せにはなれない」


 ――するとその瞬間、足柄さんは自らの刀で体を真っ二つにしてしまった。次元斬か!?


「な――」

「足柄さん……!?」


 ……自殺、した。今さら回復弾を撃ったところで、復活できるはずがない。


 それは能力の限界、というよりは。俺が「死者の蘇生なんてできるわけがない」と感じているのだ。


 できない確信があることを、アシストフォースで実現することはできない。


 つまり、足柄さんは……もう蘇らない。完全に、死んでしまったのだ。


「…………」


 もやもやする。結局、この迷宮教との戦いの発端が狂言で、その理由も語られることなく本人が死んでしまったのだ。


 この戦いは一体何だったのか。疑問ばかりが湧いてくる。


「……それでも。少なくとも、教祖……大磯サダオ」

「ひっ……!」


「お前が犯罪者であることは間違いない。お前は俺達の目の前で、アシストフォースを使った殺人をしていたな。

 あの慣れっぷりを見るに、明らかに一度や二度じゃないだろう。お前は、逮捕する」


 ギリ、と教祖の歯が軋む音がこちらまで聞こえてくる。奴はルカの首に腕をかけ、立ち上がらせた。


「あっ!?」

「う、うう、動くな! 来るんじゃあない! この娘はまだ、私の能力の影響下にあるんだぞ!」


 ……この野郎。どこまで見下げ果てたやつだ。


 目の前の光景。ルカが首を圧迫され、おっさんに捕まっているという姿は……俺の怒りを刺激するには十分なものだった。

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