第5節 花火
「合宿……? これがか……?」
眩しい太陽。押し寄せる波の音。青い空、青い海。
簡単に言うと俺たちは海に来ていた。
「ハッハッハ! まぁいいじゃないか。勉強は夜にでもできる」
「うおっ! おぉ、ゴロウか」
肩を組んできた水着姿の色黒の男。しばらく見ない間に焼けたな……。
俺もASSISTに入る前はバスケ部だったし、日々の業務で何かとハードに動き回っているからそこそこ筋肉がついてきたと思っていたんだが。
コイツには明らかに負ける。骨格から違う。何故だ。もっと牛乳とか飲むべきか?
「暑い……ジメつく……くそ……」
「お前たち知らないのか! 海には毒性生物がわんさかいるんだぞ! こんなところで歩いていたらイモガイに貫かれることになる!!」
「ビーチサンダル履いてりゃ大丈夫だから安心しろ」
どうやら松原もヒロキも無事来てくれたようだ。ルカに連れてこられたのだろうか。
「ところでセイジ。そこそこに大事な話なのだが」
「あ、あぁ。なんだ?」
「ルカについてだ。色々と話を聞いてやってほしい。お前が適任だ」
「適任って? 付き合いならゴロウ達のほうが長いだろ」
「ああ。だが……結局俺たちは、並べなかった。あの強さにな」
ゴロウはどこか寂しげに海の波を見つめる。
「付き合いが長くても。いや。付き合いが長いからこそわかるのさ。
俺たちは彼女に並び立てない。明らかに自分より弱い相手に、弱音を吐こうとは思わないだろ」
「…………」
卑屈な物言いだが、否定することはできなかった。ASSISTという特異な組織の中で、一番強いのは俺かルカだ。
ゴロウや松原だって、決して弱いアシストフォースではない。だがルカには遠く及ばない。それは事実だった。
「……ま。とりあえず今は、一緒に楽しもうじゃないか」
「あ、あぁ」
ニカッと笑顔を浮かべて俺の肩を叩くゴロウ。まったく、いい男だ。
「おーい、みんなー!」
「ぁハイッ! 先輩!?」
爆発音が背後で聞こえたとき並の反射で振り向く。そこにはユズと、ルカの姿があった。
髪型はいつも通りだが、普段のポニーテールのヘアゴムの代わりにピンク色のシュシュで髪をまとめている。
白いパーカータイプのラッシュガードを着て前を閉めているので、水着は見えない。ニヤニヤと笑っている。
「どこ見てんの? 水着が見れなくて残念?」
「いや? 全然。断じてそんなことは。ていうか見てませんし?」
苦しい嘘を吐きながらルカをちらりと見る。
……水着を隠しているのは残念ではあるが、正直ラッシュガード姿も……全然イイ。
丈が結構短いから脚がだいぶ見え――いややめよう。スケベな目で見るのは駄目だ。バレたら砂浜に埋めて帰られる。
「さーて! それじゃ、今日は遊ぶぞー!」
「勉強に来たんじゃなかったっけ……」
■
「いざ! 己の魔力のみで、翡翠と漆黒の球を撃ち抜くとき――!」
「スイカ割りな」
「ヒロキー! 左! 左だ!」
「嘘だ!! 僕を騙そうとしているに違いない! 僕は今スイカ割りなんてしていないのかもしれない!!」
「だいぶ根底から疑いに来たな……」
■
「見るがいい。蒼き雫が詰まりし瓶。封印を解くための鍵はここに――」
「ラムネのビー玉ってどうやって入れてるんだろうな?」
「フッ、教えてやろうセイジ、『真実』を……。アレはラムネの炭酸ガスで押し出して嵌めてるんだ」
「めちゃくちゃ普通の雑学をありがとう」
「あっ……やっちゃった! 瓶が砕けちゃったよ。もー、びちゃびちゃ」
「何をどうしたら瓶が砕けるんだよ。異常空間外でもゴリラなのか……いっっってぇ!!」
「まずい! セイジの頭まで砕けるぞ!」
■
「クソ……こんな海なんかにいるくらいだったら映画でも見ていたかった……」
「よう、松原」
「……神凪か」
「映画好きなんだな。何の映画見るんだ?」
「……ホラー映画とか」
「今だとミッドサマーとかか?」
「……!? 見るのか、映画。お前も」
「ルカ先輩が任務終わりに何かと俺を連れ回すから、結構見てるんだよ」
「じゃあ、犬鳴村とか見たか?」
「見たよ。クソつまんなかったけどな」
「ハッ……ハハッ、だよな!」
■
「ふぅ……」
楽しい時間はすぐに過ぎるもので、あっという間に夜になってしまった。
水着からただのシャツとハーフパンツの薄着に着替え、俺は夜の海に来ていた。
昼の喧騒はすでになく、砂浜には大量の足跡が残っている。
コンクリートでできた桟橋の端まで歩き、座り込む。足元で黒々とした海が波を描いていた。
今日は月明かりも少なく、この辺りには光源もない。夜の海はとてつもなく暗かった。その暗さと海風が俺の頭を冷やす。
「セーイジ君」
しばらく波を見つめていると、俺と同じく薄着――白いTシャツにホットパンツ、あとはスニーカーくらいしか身に着けていないルカが現れた。
その手には何やら大きな、やけにカラフルな袋みたいなものを持っている。
「ルカ先輩。なんすか、それ」
「へへへ……花火やらない?」
ガサリ、と彼女が体の前に出したそれは、大量の花火が入った袋だった。
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