第4節 加速する心
俺とルカは、ASSISTを狙って襲ってくるであろう迷宮教に顔が割れている。
とはいえ、その信者もそう多くはない。迷宮教は日本各地どこにでも信者がいるような巨大宗教では決してなく、知る人ぞ知るマイナー宗教に過ぎないからだ。
だから、異常空間の解体現場に顔を出さなければそうそう見つかるようなことはないだろう。それがASSIST室長代理となった田原さんの見解だった。
つまり、ASSISTは一時休業。我々学生チームも自宅待機となった。
『ゴロウ:だから、合宿に行かないか』
『セイジ:何がだからなんだ』
『ゴロウ:我々はそれぞれの学年の勉強なども日々ASSISTでしていたわけだ。
しかし、迷宮教とかいうののせいでASSISTが活動停止した。すると我々の勉強も滞るわけだ』
そんなある日のグループトーク。ゴロウが突然妙なことを言い出した。
『ユズ:面白い――試みようというわけか、我らのサバトを――』
『ゴロウ:サバトは試みない。結局学生チームで集まる機会も少なかったし、せっかくだしどうかと思ってな』
『ルカ:いいねそれ! 面白そう!』
ピコン、と弾むメッセージ。正直行っても行かなくてもどっちでもいいと思っていたのだが、ルカが参加するのなら俺も参加しよう。
『セイジ:いいと思うぞ。俺も行く』
……メッセージを送信してから気付いたが、俺の行動理念はルカがいるかどうかなのか?
ああくそっ、やめろ、考えるな! 俺は頭を振って煩悩を振り払う。
『ユズ:松原とヒロキは? 来るがいい……』
『松原:行かない』
『ヒロキ:危機感がないのか!!今も我々は命を狙われているんだ!真実を知ってしまったというのに』
『ルカ:2人とも力づくで連れて行くから安心していいよ』
おお……。なんというか、メッセージを見るだけで学生チーム内のヒエラルキーが理解できるな。
陽キャな上に能力もトップなルカが一番上。リーダーシップを嫌味なく取れるいい男、ゴロウが二番手。
その次に、おそらくフツメンの俺。四番手は厨二病だがノリはいいユズ、暗い松原と陰謀論者ヒロキが最下層か……。
再びスマホが振動する。それはグループトークではなく、ゴロウからの個別トークだった。
『ゴロウ:悪いな。忙しいだろうに』
『セイジ:いや、そうでもない。任務も行き詰まってたしな』
迷宮教の教祖の捕縛。ぶっちゃけただの学生がやるには厳しすぎる内容だ。
迷宮教とやらの信者がどこにいるのかすらわからないため、捜査は難航しまくっていた。どこから手を付けたらいいかもわからない。
『ゴロウ:実は、この合宿はルカのために俺とユズで企画したんだ』
『セイジ:ルカ先輩のため?』
『ゴロウ:この間、足柄さんが亡くなっただろう。ルカは彼とかなり付き合いが長かったんだ』
……そうなのか。俺はメッセージを見て少し固まる。
確かに、訃報を聞いたときルカは動揺していたように見えた。しかし、すぐに持ち直したようにも見えた。
『ゴロウ:表には出さないだろうが、それなりにショックを受けているはずだ』
『セイジ:そうか』
ルカの我慢癖は俺以外の人間も知っていたようだ。なんだか少し複雑な気分になる。
とにかく、そういうことなら少しでも気持ちを楽にしてもらいたい。
迷宮教だの何だの。変なしがらみのことは、一時でもいいから忘れてもらいたいものだ。
『セイジ:そういうことなら、俺も協力させてくれ』
『ゴロウ:ありがとう。いい合宿にしようじゃないか』
……しかし、文面からわかるくらいいい男だな、ゴロウ。
あんまりいい男ぶりをルカの前では発揮しないでほしい――
(いや待て。俺一体何考えてんだ?)
さっきから、というかちょっと前からおかしいぞ。どうにもモヤモヤする。
ルカのことを考えると思考の方向がおかしくなりがちだ。彼女はただの先輩。命を救われたりしただけの先輩だ……!
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