第2節 ショッピングモール
全国からの異常空間発生の連絡が一時的に途切れ、俺とルカは久々に東京に戻ってきた。
結構久々に家に戻ったが、あいにく俺を迎える両親はいない。父は長野県の槍ヶ岳に、母は鹿児島に旅行に行っていたからだ。
(俺がドライな人間で良かったな。まともな感受性の子供だったら確実にグレてるぞ!)
とはいえ、あの親にしてこの子ありと言うべきか。俺も別に寂しくは思わず、腹いせに冷蔵庫にあった高級土産カラスミを食って「出勤」することにした。
「おはよう、セイジ君!」
「うおっ! ル、ルカ先輩。おはようございます」
ASSIST本部がある最寄り駅、霞が関駅。そこに俺は「出勤」……または「通学」していた。
場所が場所だけに、学生よりもスーツ姿の男たちの割合が多い改札。
少し浮いている気はするが、だからこそこうしてルカと合流することができると思うと悪い気もしない。
「あー、あのモールまだ出来てないんだ。工事長いね〜」
白い壁で覆われた建設現場を見て、ルカが愚痴を漏らす。
「俺が初めてASSISTに来た日にはもう建設中でしたね」
「へー、そうなんだ? アレが作られる前はねー、あそこ通り抜けできたんだよ。だから警察庁までちょっと近道できたんだけどね〜」
「ああ、なるほど。だから来るたび文句言ってたのか……」
「早く完成して私の近道を復活させてほしいよ」
文句を言いながら歩くルカの隣で、俺はスマホから建設している建物について調べる。
「……でも、ルカ先輩。結構いい施設ができるっぽいですよ」
ほら、とスマホの画面を見せる。できるのは大きめのショッピングモールのようだ。
映画館、レストラン、フードコート、ゲームセンター、服屋……おおよそ若者に刺さりそうな施設はだいたい網羅されるようだ。
「おおーっ、いいね! 出来上がったら一緒に行こうよ〜!」
「え゛っ」
首を傾げるルカ。……この人ホント、わかってんのか!?
もっと自分が美少女である自覚と、何かにつけて距離が近いという自覚を持てよ!
だってこんな、色々ある施設に一緒に行くとか……それはもうデートじゃないのか!?
それとも俺が勝手に意識しすぎてるだけで、世間一般ではこれをデートとは呼ばないのか!?
もうだんだんわからなくなってきた。なんでこんなに悶々とさせられなきゃならないんだ……!
「どしたのセイジ君。着いたよ」
「ハッ! あ、いや……はい。行きましょうか……」
警察庁の入り口を進みながら、俺は深呼吸する。通行証を見せて、エレベーターに乗った。
■
「よく来てくれた、2人とも。今日は重大な任務を頼みたいんだ」
「重大な任務? ていうか、足柄さんはどうしたの?」
いつものASSIST学生チーム室に呼ばれた俺達は、冷たいクーラーで汗を乾かしながら、メガネをかけた知らない職員――名札によると田原ソウヘイ――によって任務の案内を受けていた。
普段俺たちに異常空間絡みの依頼をしてくるのは室長の足柄さんだったはずなのだが、今日は姿が見えない。
「足柄さんは、実は……2日前に、殺されている」
「――!?」
なんだって? 言葉は耳に届いたのに、頭がそれを理解できない。
殺されている? ……殺された? 「死んだ」とかじゃなくて、「殺された」なのか?
「……どういうことですか」
「犯人はほぼわかっている。『迷宮教』と呼ばれる宗教の人間だ」
俺より付き合いが長いぶん、ルカ先輩はよりショックが大きいだろう。声が震え、暗く響いていた。
「迷宮教? ……何なんですか、それは」
「異常空間を崇める新興宗教だ。奴らは、我々ASSISTが秘匿しているはずの異常空間のことを知っている。
奴らは異常空間を『神のいる場所』、聖地と崇めていてな。異常空間に適合し、そこに住むことで現世から解脱することを教義としている」
現世から解脱? 何なんだそりゃあ。要するに現実逃避ってことか?
まだ混乱している俺たちに対して、田原さんはホワイトボードに1枚の写真を貼り付ける。
やや前髪の薄い、顔に薄黒い染みのある小太りの男。二重顎を歪ませ、目を細めて笑っている中年。
「この男は迷宮教教祖……大磯サダオ。君たちには、この男の捕縛を頼みたいんだ」
「……捕縛ぅ?」
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