第4節 顔合わせ

 退院した俺は、日常に戻る――ことはなく、なぜか当然のように車に乗せられていた。


「これからさっそく、ASSISTの本部に行こうと思う。

 私は足柄ソウヤ。ASSISTの室長をしている。これからよろしく頼むよ」


 運転を他の人に任せ、助手席から体を反転させて握手を求めてくる足柄さん。かなりピシッとしたオールバックの黒髪で、体格もいい。


 体格がいいから、狭い車内で体を捻って後ろに振り向いている現状はかなりきつそうだ。体が震えている。


 しかし彼はそれを感じさせない余裕ある微笑みを浮かべている。これが大人というものか……。


「よ、よろしくお願いします。しかし……ホントに俺が働くんですか? 俺は別にいいんですけど、労働基準法とか……」

「ハハハ。我々は警察庁の所属なんでね。警察は警察を逮捕しないからいいんだ」

「良くはないだろ!」


 爽やかな笑顔でとんでもないことを言う人だ。とにかく……俺は車に乗って、東京都心へと向かったのだった。



「紹介しよう。君たちの新たな仲間になる神凪セイジ君だ」

「あー……神凪セイジっす。よろしくお願いします」


 そうして俺が案内されたのは警察庁内部の部屋。


 そこはまるで学校の教室かのように机が置かれ、部屋の前には巨大なホワイトボードが置かれた謎の空間だった。


 どこか機能的なイメージのある細身の机が6つ置かれている。そのうち4席は、それぞれ若い男女によって埋められていた。


「フーン。その目の傷がアンタのスティグマ……ってワケ?」

「なんて?」


 1人は金髪のヤンキーみたいな女子。三白眼で目つきが悪いが、ピアスなどはしていない。


 着ている制服は……あのときの彼女が着ていた制服と同じだ。藍色のジャケットに暗色のチェック柄スカート。なんなんだ? ASSIST用の制服なのか?


「ふーん……よろしく」


 もう1人はメガネをかけた灰色っぽい髪の男だ。制服は着崩されていて、こちらに興味がないのかスマホをいじっている。


「よろしく頼む。命と背中を預ける者同士、仲良くやっていこうじゃないか」


 そしてもう1人。机が小さい……のではなく、体格がデカすぎる男。浅黒い肌でスキンヘッド。


 一応顔立ちは日本人っぽいが、明らかにただの日本人の体つきではない。どこか爽やかな微笑みを浮かべてこちらを見ている。


「さらに追加の人員だって……? 怪しいな。本当に適合者なのか? そんなに多く出るものか? 僕らを監視するための別組織のスパイとかじゃ――」


 最後の1人も男だ。ぶつぶつと高速で何かを呟いている。目が前髪で隠れていて顔がよく見えない……。


「……なんつーか……。随分とキャラの濃い……」

「これがASSISTの学生チームだ。ダンジョンに適合し、アシストフォースを手にできる人間はとにかく少ないからね。

 学生であっても、よほどのことがない限りは協力してもらうことにしているんだ。


 とは言っても、本来君らは学生の身分。ASSISTの業務に協力しながらも、教育は受けられるようにしておきたい。

 そこで用意したのが、このASSIST学生チーム。ここで各々勉学に励んでもらいつつも、異常空間が発見されたらその対処に向かってもらいたいんだよ」


「……あ!? なんか当然のようにここに通う話にされてないか!?」

「もちろんそうだよセイジ君」

「おいっ! 俺に許可もなく何を言ってんだ! 元の学校はどうなる!?」


「転学処理をした」

「勝手にやるなよ!? つか、親は! 親の許可とかいるだろ!?」

「取った」

「取るなよ!!」


 とんでもない男だ、足柄……! フットワーク軽く人の人生を大きく変えるんじゃねーよ! 高校生にとって転校って結構なことだぞ!


「まぁまぁ。俺は上杉ゴロウ。この生活も慣れると楽しいぞ」

「アタシは進藤ユズ。共に戦おうぜ、この世界のために――」

「……松原だ」

「僕は影山ヒロキ。君は本当に適合者なのか? 証拠は出せるか? 年齢確認書類とかペラペラペラペラ」


 ……一瞬顔を合わせただけだが、だいたいは理解した。


 見た目に対してかなりマトモなゴロウに、中二病のユズ、口数の少ない松原、そして陰謀論者のヒロキ。仲良くなれそうな奴が少ないぞ!


「あ……そういや足柄さん! あの子――ルカって子は?」

「あぁ……ルカ君か。いや、君が来ることは伝えてたんだが」

「ルカは来るときと来ないときの差が激しいからなぁ」


 ……そんな話をしていると、外からパタパタと廊下を走る音が近づいてきた。


 ガラリ、と教室(?)のドアが開く。そこに現れたのは――


「ごめーん、遅れちゃった! 新しい子もう来てる!?」


 ……聞き覚えのある声。その登場に息を呑み、しばらく呼吸が止まる。


「あ……! 君がセイジ君だよね! いやー、生きててよかったよ、ホント!」


 彼女はすぐに俺の目の前まで歩いてくると、両手を握り俺の目をまっすぐ見つめてきた。


 少し日本人離れした緑色の目がキラキラと輝いている。俺はなんと言ったらいいかわからず、しばらく絶句してしまう。


「ねぇセイジ君。さっそくなんだけど……」


「これから一緒に、京都に行かない?」


 ……………………。

 ……はっ?

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