第6節 12月24日18時
お昼ご飯を食べ終えた私とセイジは、一旦遊園地に戻って乗ってないアトラクションをだいたい制覇した。
そんなこんなで、空はだんだんと茜から暗い色へと変わっていき、18時になった今ではもうビルや並木が光り始める。
「うわー、綺麗!」
クリスマスだからなのだろう、青や白の光の粒が街中に広がっている。
ついさっき乗ったジェットコースターのレールに光が走っていく。
巨大な観覧車は中心から放射状に虹色にライトアップされ、どこか現実離れした、夢のような美しさが目の前にあった。
「この頃はどこもライトアップされるもんだが、みなとみらいのイルミネーションはその中でも綺麗だった記憶があってな」
「へぇ。セイジもダンジョン以外の記憶が残ることなんてあるんだね!」
「お前は相変わらず俺をマシンかなにかだと思ってないか」
逆に今日のデートでマシンじゃないところを見すぎてちょっと印象がおかしくなりそうだよ。
「さて。そろそろ移動するか。もう遊園地は遊び尽くしたろ」
「そうだね! 移動って、どこに……?」
「海だ」
……海???
■
「こんばんは。本日は屋形船あらかぜをご利用いただきありがとうございます。
ゆっくりとみなとみらいの夜景をお楽しみいただきながら、揚げたての天ぷらや新鮮なお刺身をご賞味ください……」
ぐらぐらと揺れる地面。畳が敷かれ提灯が提げられた和風の船内は、やや狭いながらも明るく、笑顔の人たちがたくさん乗っている。
そう。この人ももう言っていたように、屋形船だ……!
「晩飯兼イルミネーション見物兼船だ。なかなかいいだろ?」
「確かに、なんかすごいかも……」
私は驚きのあまり少しぼんやりしてしまいながらも、窓の外を眺める。
赤レンガ倉庫というやつが夜の暗闇の中、かすかにライトアップされている。
暗い海の水が屋形船の光に照らされ、滑らかな波を描いている。
遠くにはさっきまで私たちがいた遊園地……その大きな観覧車が回っている。
ゆったりとした揺れは酔いよりもむしろ心地よく、ザバザバと小さく鳴る波の音とともに、私の心を落ち着かせた。
「お待たせしました。エビの天ぷらと、さつま揚げです」
景色を楽しんでいると、木製テーブルの上の皿に湯気を放つ天ぷらが乗せられた。
白い紙に油が染み込み、パチパチと衣が鳴っている。天つゆにつけて食べると、本当に揚げたてですごく熱かった。
「あっ、あっつ……! でもおいしい!」
「悪くないな。さて……俺はちょいと飲ませてもらうか」
「あ! ずるい!」
私の隣で天ぷらをつまんでいたセイジが、瓶を開けてコップにビールを注ぎ始める。
たぶん年齢的にも飲んだことはないと思うが、すごく美味しいらしいことは知っている。
見ると、他の客たちも大概はビールを飲んでいた。だよね、そりゃ。ご飯とかないし、天ぷらも刺身もお酒用だよね!?
憤慨する私を尻目に、セイジは太い喉を鳴らしてコップの8割ほどのビールを一気に飲み終えた。
「ぶはぁ! 久々だが旨いな。新年会以来か?」
「ぐぬぬ……私も飲みたい〜!」
「駄目だ。子供に飲ませるわけにはいかん。おとなしくウーロン茶を飲め」
トポトポと注がれる茶色いお茶。違うんだよ……! 別に合わないわけじゃないけど、刺身と天ぷらとウーロン茶はそれぞれ他人なんだよ!
■
そんな晩ご飯を食べてしばらく。私は船の後部に出てきていた。
さすがに冬の夜だけあって風が冷たく、あまり長居するべきじゃないかもしれない。
船が動くに従って波ができていく。海に足跡を刻むように。その波がどんどん消えていく。
「ホント、綺麗だなぁ……」
光り輝くランドマークタワーを見上げる。船はちょうどそのすぐ下を通っていた。
海の匂いを嗅ぎながら高いビル群を見る。光の粒がその表面にまぶされていた。あの1つ1つに、今も働いている人とか、そこに住んでいる人たちがいるのだろう。
クリスマスイブというこの日に何を食べるか。どこに行こうか。明日はどうしようか。そんなことを考える人たちが、確かにそこにいるのだ。
「ルカ! こっちにいたのか」
光を見ていた私の背後からセイジの声がする。体も冷えちゃったし、そろそろ中に入ろうと振り向く。
……なんだか視界が歪んでいた。
「ルカ? ……泣いてるのか?」
「えっ……」
言われてはじめて、私は目を拭った。そこに付いていた水は、海の水飛沫のものではなかった。
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