第5節 12月24日13時
「はー……楽しかったぁ」
それからも細々したアトラクションに乗って、しばらく遊園地をエンジョイした。
平日だということもあって人も少なく、待ち時間なしでどんどん乗れるのはとても楽しい。
お化け屋敷に入ったり、屋内のローラーコースターに乗ってみたり。セイジが楽しんでるのかどうか微妙にわからないのが残念ポイントだけどね……。
「ねぇ。そろそろお腹空かない? お昼食べに行こうよ」
「あぁ、そういやもうこんな時間か。ちょっと待っててくれ……」
そう言って、セイジはスマホから何かを操作する。小さく頷いた。
「よし、行こうぜ。ここから近くだ」
「え? う、うん」
ここはダンジョンじゃなくて現実なのに、いつになくスマートで頼りになるセイジ。
ちゃんとデートプランを練ってきているみたいだ……。な、なんか、顔が熱くなってくる。
遊園地を出ると、その喧騒がとたんに遠ざかっていく。広い道を海の方へと歩いていくと、潮風が吹き始めた。
「わ、風強ー……」
行き交う人は皆楽しげだ。観光地だからか、外国の人もたくさんいる。
「海外の観光客もな。最近までは全然いなかったんだぜ」
「え? そうなの? どうして?」
「ダンジョン化の影響だ。『大変革』が起きたのが日本だからなのか、ダンジョン発生率はかなり日本に偏っててな。
『いつどこがダンジョン化するかもわからない国』ってイメージが根付いちまったらしい。そのせいでしばらく渡航禁止になってた国もあってよ」
……「大変革」。ブライトが起こした大災害。そのことを考えると胸が重くなる。
あまり考えないようにしていたが、やはり新藤のあの言葉が引っかかって仕方ない。
以前の私を知っていると主張する彼が、私をブライトと呼ん――
「着いたぞ、ルカ」
「え……あっ」
セイジは私の目の前に手をかざしていた。いつの間にか目的地に着いていたらしい。
そこにあったのは、赤いオーニングがたくさん掛かったオシャレなカフェだった。
テラス席にはすでに、ちょっと高そうな服を着た主婦層っぽい女の人がたくさんいる。
「……なんか高級そう! こんなところでランチして大丈夫なの、セイジ?」
「今日は散財してみようかと思ってな。とはいっても4千円くらいだ、心配するな」
ラ、ランチに4千……!? 学生的金銭感覚ではだいぶ高いように感じる!
「お待ちしておりました。2名でご予約の神凪様ですね」
店内に入ると、これまた広くて天井も高い。白を貴重とした店内に四角く大きいテーブルが余裕を持って並んでいる……。
「こ、ここスーツとかじゃなくて大丈夫なのかな?」
「ビビりすぎた。大丈夫だろ……たぶん」
「たぶん!?」
「大丈夫ですよ。お待たせしました、ランチコースの前菜です」
そんな話をしていたら、店員さんがクスリと笑いながら皿を持ってきてくれた。聞かれてたぁ!
店員さんが皿に乗ったなんかオシャレな前菜を読み上げる。なんかその……とにかく季節のいい感じのものが入っているらしい。
「じゃ、いただきまーす……!」
丸く形作られた米? みたいなものの上にピンク色のなにかと緑色の濃い野菜が乗っている。
それをナイフで切ってまとめて食べる……。
「……! おいしい!」
ピンク色のなにかは魚みたいで、スモークの香ばしい香りがする。
それを野菜の新鮮な風味がカバーして、互いの短所を打ち消し合っているようだ。
一番下の米っぽいなにかも下地として他の食材を引き立てていた。とにかく、つまり……おいしい!
「お待たせしました。続いて、ヴィシソワーズスープです」
「おいしい!」
「メインの鴨胸肉のソテーでございます。ソースをつけてお召し上がりください」
「おいしい!」
「本日のデザートはクレームブリュレでございます」
「甘くておいしい!」
……ハッ!
気付けば舌バカの感想を垂れ流してしまった。前菜の時点で食レポ力を使い切ってしまったみたいだ。
心なしか視線が痛い。子供だと思われてそうだ……。チラリとセイジを見る。
「……たしかに、旨いな。普段の飯から3千円程度足しただけでずいぶん変わるもんだ」
よかった。彼も感動してるからか私の食レポに疑問は抱いていないみたいだった。
「味もいいけど、景色もいいよね。ほら、窓の外。海と、なんかでっかいビルが見えるよ!」
「ランドマークタワーだな。70階もあるんだってよ」
「な、70階……! すっごいねぇ。ハイパーお金持ちが住んでたりするのかな?」
「そういうビルじゃないから住んではないぞ。大半はオフィスだ」
「なんでも知ってるねぇ、セイジ」
「調べたからな。住めるビルはあっちだ」
そう言って、セイジは運河を挟んだ向こうにある高いビルを指さした。ランドマークタワーに比べれば半分くらいの高さだろうか?
「幸せは金じゃ買えないとは言うけどよ。こういう旨い飯食って、あんな家に帰って、いい景色を見ながら寝る……。
金じゃなきゃ買えない幸せってのも案外多いよな」
机に頬杖をついて、セイジは海を見ながら言う。今日のお金のかかったデートを楽しんでいる身としてはとても否定できないセリフだ。
「セイジも考えが変わった? じゃあ、次遠くのダンジョンとか行くときは電車以外で行こうよ」
「『次』……か。そうだな……」
彼はなにか、予想外のことがあったように目を開いた。表情を緩める。
「検討しとくよ。『次』はロマンスカーでも使うか」
「やった!」
――そのときの私は。彼が「次」という言葉を強調した意味を、よく理解していなかった。
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