第2節 12月24日11時②

 とりあえず屋台にやってきた私たちは、そこにいた店員さんにお金を払い、ミニゲームみたいなものに挑戦することにした。


 屋台ごとにワニワニパニックとかボール投げとか、ゲームの種類は違うみたいだが景品はどれもさほど変わらなそう。


「というわけで頑張ってね、セイジ!」

「お前がやらないのかよ。まぁいいが……」


 とりあえず、制限時間以内にボールをバスケットゴールにたくさん入れるやつに挑戦する。30秒以内に40個入れたら景品だそうだ。


 ざわざわした声に紛れて、小さくホイッスルみたいな音が鳴る。ゴロゴロとボールが転がってきて、タイマーが刻まれ始めた。


「ほっ、ほっ……ん? 合ってるのか、これで」

「合ってる! 合ってるけど投げ方がなんか変! こういうのって両手で投げない!?」


 セイジは首を傾げながら、片手のアンダースローで次々にボールをゴールに入れていく。


 しかもその狙いの良さは凄まじい。投げたボールがことごとく、全く同じ軌道で全く同じようにゴールネットを揺らすのだ。


 そのスーパープレイっぷりに、道行く人がチラチラと彼の勇姿を見ている。


「なんだ? こんなんでいいのか」

「普通はそんな楽じゃないんだよ!」


 ビーッ、とホイッスルが再び鳴った。結局、30秒以内に47個のボールをゴールに叩き込んだセイジ。ゴールに弾かれたのは1つだけだった。


「お、おめでとうございま〜す! 景品はこちらからお選びいただけます」

「選んでいいぞルカ。どれもよくわからん」

「い、いや……私もよくわかんない……」


 最近のアニメとかゲームのキャラのぬいぐるみっぽいものが景品として並んでいる。


 が、当然どれも見覚えがない。とりあえず、なんかふわふわした猫みたいなやつを貰った。なかなか抱き心地と触り心地がいい。


「次はこれ! ボールで缶を倒すんだってさ」


 次の屋台のゲーム。ぬいぐるみの景品に囲まれた中に、下から3個、2個、1個で積み上げられた缶がある。


 これに小さなボールを投げて、倒した缶の本数次第で景品とのことだった。


「よぉし、じゃあ今度は私がセイジに景品をあげよう!」

「あぁ、期待してないけど頑張れ」


 こ、こいつ! 私はむんずとボールを掴み、力任せに缶めがけて放り投げた。


 バイン! ……と、後ろの壁に激突したボールが跳ね返って床に落ちる。え? そもそも当たってすらいない?


「いやいや! ボールはまだあと2個……ああっ! あと1個……なあぁっ!?」

「すごいな。缶の山が揺れすらしなかったぞ」


「むうぅ! そんなこと言うならセイジがやってみなよ! 意外と当たらないんだから!」

「お前……さっきの俺のゲームを見ておいてよく言えるな」


 セイジがお金を払ってボールを受け取る。彼が投げたボールは缶の山のど真ん中に直撃し、一気に3つの缶がこぼれ落ちた。


「おお……!?」


 店員さんや、隣で挑戦していたカップルの男の人が歓声を漏らす。


 2つめのボールを掴み、再び缶に直撃。1つ残して6つの缶を全滅させ、見事セイジは一等賞の景品を手に入れた……!


「……で? 選んでいいぞ、ルカ」

「ぐううう〜!」


 ……なんか硬そうなバトル漫画の主人公っぽいフィギュアを受け取った!



 次に私たちは、アトラクションに乗ることにした。入り口からすでに見えていた、時々バシャバシャと大きな水音を立てていたコースターだ。


 私たちは2人で並んで、丸太でできた船……風のボートに乗り、水の流れの中を進んでいく。


「なんか、このアトラクションは絶叫度を測るらしいよ。たくさん叫んだらポイントが高いんだって!」

「そうか……頑張ってくれ」

「なんで叫ぶ気ゼロ!?」


 とはいえ、確かにセイジの言うとおり、叫ぶ要素は特にないかもしれない。


 ボートはゆっくりした動きのまま、少しずつ坂を登り始める。カタカタと音を立てながら上へと進んでいく。


 見える景色はそのまんま、上から見た遊園地だ。隠すことない鉄骨とか、建物の中とかがよく見える。


 そうしてある程度の高さまで登ったボートは、予想通り、揺らいで坂を落ちていく。


「おおおおおぉ〜〜!」

「…………」


 向かい風が強まり、ビュウビュウという風の音、そしてレールを滑るボートの音が鳴り響く。


 着水と同時に大きく水が飛び散り、再びボートはゆっくりと水の上を進んでいく。


 私が声を出して喜んでいる横で、セイジは腕を組んで黙り込んでいた。いつぞやの水族館を思い出す……。


 とはいえ、ちょっとセイジの気持ちもわからなくはない。そんなに高くもなかったし、割と子供向けって感じだ。


 ボートはしばらく後にまた登っていき始める。元の乗り場に戻っていくみたいだ。


 ――その直後、再びガコン! とコースターが落ち始めた!


「きゃああああ!?」

「うおっ!」


 ……ま、まさかの2段構え。終わったと思っていたので思いっきり普通に悲鳴を出してしまった。


「今のはビックリしたね! ね、セイジ?」

「……いや? そうでもないな」

「またまたぁ。聞こえたからね、セイジもビックリしてたって!」

「してない」

「してた!」

「してない!」


 ボートを降りるまでしばらく水掛け論が続いた。水だけに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る