第10節 蜘蛛の終わり

 謎の男新藤とセイジの戦いは終わった。セイジの圧勝という結果で。


 新藤は和風のダンジョンの木の床に這いつくばり、セイジは冷酷にそれを見下ろしている。


「悪いな。ちょっとムカついたんで多めにボコっちまった。

 さて、もう力の差はわかっただろ? 降伏しろ。警察に突き出すだけで勘弁してやるよ」


「ふ……ざ……けるなっ! 何故お前がその女を庇う!? そいつは――」

「アシストフォース、意識喪失弾。捕縛弾」


 まだ何かを叫ぼうとした男は、続けざまに撃たれた2発によって意識を失わされ、金色の縄で全身を拘束された。


 ピクリとも動かなくなった新藤。彼が叫んだ言葉も最後まで聞くことはできなかった。


 ……ていうか、最初からその2発だけでもよかったよね。本人が言ってたとおり、ムカついてたのかな。


 とにかく、戦いは終わった。彼はこちらに駆け寄ってくる。


「無事そうだな。ちょっと待ってろ。アシストフォース、回復弾」


 彼の指先から緑色の弾丸が放たれ、私の体に撃ち込まれる。


 すると、途端に全身の痛みが消えた。体も問題なく動かせる。


 さすがに破れた制服の部分は直らなかったようだが……おそらく穴が空いて血が出ていたであろう部分も、普通の傷1つない肌が見えているだけだ。


「すご……。ホントに何でもできるんだね」

「さすがに代償もデカイけどな。攻撃はともかく、回復はなかなか……」


 そう言った彼の右手はほとんど全体が黒く染まっていた。


 真っ黒になったら能力は使えない……だったはずだ。万能だけど、無敵なわけではないんだなあ。


「さて。コイツはどうするかな……」


 セイジは拘束した新藤を蹴り転がして仰向けにする。完全に意識を失っているようだ。


「とにかく、1回外に出るとするか。このバカのことは警察に任せようぜ」


 セイジはそう言って、何かを誤魔化すように新藤を引きずりながら足早に来た道を引き返していく。


 その時点で疲れ切っていた私は、あれこれ考える余裕もなくただセイジについていった。


 来たときと違い不安はない。モンスターが出ても瞬殺されるだけだ。


 心穏やかに……というか、半分くらい放心状態でダンジョンを歩いていった。



「あ……! 神凪様! 困りますよ、勝手なことは!

 いくらあなたがS級解体人だからって、他の人が解体中のダンジョンに入るなんて!」


「あー、悪い悪い……それより、ほら。ダンジョン内犯罪者だ」

「は……!?」


 縛られた新藤が放り投げられ、地面を滑る。それを見た職員の人は呆気にとられた。そりゃそうでしょ……。


「この子はアイツに脅されて無理やりダンジョンに連れ込まれてたんだよ。……だよな?」


 セイジは私に目配せする。


 ……実際には普通に私が迂闊すぎたというか、ホイホイついていっちゃっただけなんだけど。


 でもそんなこと言うとますます事態がこんがらがりそうなので同意しておく。


「そうなんです〜〜。この制服とかも破かれて、乱暴されそうで〜〜。怖かったです〜〜」


 すごい棒読みになったが、制服を破られたというところは本当である。


「そ、そうだったのか……ごめんね、気付かなくて。

 ええと……そうなると、ちょっと警察に色々と捜査してもらわないといけないから――」


「あー、この子はいろいろ疲れてるから後日また頼む。とにかく後は任せたからな。俺達は帰る」

「えっ、ちょっ……ちょっと! 神凪様!!」


 隣にいる私が気まずくなるほどの強引さでセイジはダンジョンを引き上げていく。


 私もその後をついて、黙ったまま家まで帰ることになった。

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