第6節 邂逅
家の外を散歩してみると、やはりどこの道にも見覚えはない。
私はキョロキョロしながら、ひとまずマンションを出て大通りに出た。
若者にスーツ姿の大人、多くの人が行き交っている。そういう光景が日常であることを私は知っている。
コンビニや服屋、レストラン。
……その中に平然と混じってくる「武器屋」に、どうにも強い違和感を覚えて足を止めた。
(えっ、武器屋なんかあるの? なんで……?)
店名は「ガンホー・ウェポンチェーン」。
……何が売っているのか、とりあえず入ってみる。
「いらっしゃいませー」
店内はコンビニの居抜き物件らしく、狭くて棚がたくさんあった。客と客がすれ違うのはやや難しいくらいの密度で、棚は8つほど。
どれもガラスケースに入れられていて、直接手に取ることはできなさそうだ。
そこに売られているのは基本的に銃火器だった。
「ダンジョン解体の護身用におすすめ!」などと売り文句が書いてある。
購入のためにはダンジョン解体人免許が必要らしい。店内には数名の客がいて、いずれも体格のいい男の人ばかりだった。
ハンドガン、なんか長い銃、なんかすごく長い銃……。合法なのかなぁこれ。都会の大通りにチェーン店ができてるってことは、日本でも銃が解禁されたとか?
「このモーニングスター、手に取っていいですか?」
「はい。ちょっとお待ちくださいね!」
なんて会話がされたあと、サングラスをかけた店員が小走りでやってきてケースを開き、体格のいい男がずっしりした棘つき鉄球がついた棒を手に取る。
「俺のアシストフォース、武器の強化だからさ。できれば破壊力の高いヤツがいいんだけど」
「なるほど。であれば、これとかは先端の重量が高くておすすめですよ」
す、すごい会話だぁ。これが日本で交わされる会話なのかな……。場違い感が凄まじくて、私はすぐに店を出た。
■
(でも……なんで私、武器屋が変って思うんだろう?)
服装からして、私は女子高生だ。
武器屋が街に現れ始めたのは20年前、迷宮教教祖ブライトがアシストフォースで何かをして、世界中にダンジョンを溢れさせてからのはず。
つまり、私が生まれたときにはすでに武器屋が普通に街にあってもおかしくはないはずなのだ。
なのに、コンビニやレストランを日常とみなし、武器屋を異物と見なしてしまうのはどうしてなのか。
もしかして私のこの服はコスプレで、実際は結構な年齢だったり? 白虎さんによると、この制服のデザインを調べても該当する高校はなかったらしいし。
或いはもしかして、ダンジョンとかそういうものがない異世界から飛ばされてきたとか……?
「ぬぁ〜……全然わかんない。頭痛くなってきた~」
そうして街を歩き回っているうちに、少し開けた場所を見つける。
シーソーとかジャングルジムがある。公園というやつだ。ベンチに座って一休みして、知恵熱が出そうな頭を休める。
ゆっくり動いていく雲を見上げてから、近くの電信柱を見る。……何かが貼られていた。
「これは……」
そこに貼られていたのは「探しています」と書かれた紙だった。大きく顔写真が貼られている。
残念ながらその顔は私でもないし見覚えもない、無精髭を生やした男の人だ。その下に詳細な情報や連絡先が書いてある。
どうやら4ヶ月ほど前、ダンジョン解体に向かうと言ってから帰ってこない……とのことだった。
(私もこうして誰かに探されてるのかな……?)
そう思うと複雑な気持ちになる。仮にそうだとしても、私には帰るべき家がわからないのだ。家族や友達……心配してくれる人がいるといいんだけど。
「……ねぇ、そこの君」
そうしてしばらく黄昏れていたら声をかけられた。見ると、そこには灰色の髪の男性が立っている。
緑色のモッズコートを着た、比較的体格の良さそうな人だ。30代くらいだろうか。目が据わっているというか、少し危険な気配がある人だ。不審者かな……。
「……はい?」
「君、僕のこと覚えてるかい?」
その言葉に心がざわついた。もしかして、私の知り合い? じゃなきゃこんなこと聞いてこないよね? 私は勢いよく立ち上がる。
「私のことを知ってるんですか!?」
彼は私の勢いに怯んでいた。慌てて、私が今記憶喪失で、記憶のヒントを探していることを補足する。
「記憶、喪失……か。なるほど。確かに、そうなるのも頷けるかもね」
「え……なっ、何なに!? どういうことですか!? 前の私を知ってるの!?」
「ああ、知ってる。本名は知らないけど、君が何者で、何をやっていたかはね」
本名は知らない……? ますます理解不能だ。何をやっていたら本名知らないまま知り合いになるんだろう?
やっぱりコスプレイヤーとか……? 不安になってきた。私の実年齢が。
「お、教えてください! 私、記憶を取り戻したいんです」
「ああ。僕も君には元に戻ってほしい……話すのは簡単なんだけど」
その男の人はそうだな、とスマホを取り出した。
「近くにダンジョンがあるんだ。そこで話さないか?」
「……えっ」
なんでわざわざダンジョンで? ダンジョンってそんなカフェみたいなノリで行く場所ではないよね、絶対。下手すればモンスターに殺される危険地帯でしょ。
「君のことは、あまり表で話したくないんだ。誰かに聞かれたくないことでね」
「いや、だからってダンジョンは危ないと思うんですけど……」
怪しすぎる。私の会話から適当に話を合わせてるだけの変質者なんじゃないかな。大きな声で助けを呼んだほうがいいかもしれない……。
「そうかな? 僕の知っている君なら、少なくともそこらのダンジョンなんて平気だったはずだけどね」
そう言いながら、彼はパスポートみたいな手帳を取り出した。
その表面に描かれているのは――卍の先が枝分かれしたみたいなマーク。つまり……「迷宮教」。
つまりこの人は、「迷宮教」の信者……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます