第3節 「ギルド」に行こう!

 ガヤガヤとした賑わう音に、食器がぶつかる音。流れるJ-POPらしきBGM。


 吹き抜け2階建ての広場には様々な強面の男女が集っていた。


 やや背の低い受付カウンターの奥には数名のスタッフがいて、黄土色の制服に身を包み、集った人々が順番を呼ばれるのを待っている……。


「……なにここ。カジュアルな銀行? 市役所?」

「だからギルドだって言っただろ。

 ここが各県が運営する『ダンジョン解体人支援センター』、通称『ギルド』だ。誰が呼び始めたのかは知らん」


「へ、へ〜……。つまりこの……カウンター前に集まってるのはみんな解体人?」

「ほとんどそうだ。ダンジョン解体の申請や、解体認定を受けに来てる。

 申請すればダンジョンに潜る資格が与えられ、解体出来たっつー認定を受ければそのぶんの報酬が与えられる」


 なるほど。依頼を受けて完了報告……そう考えるとまるで本物のギルドみたいだ。


「あれ? でも、セイジそんなのしてなくなかった?」

「申請の方は今はネットでもできるからな。認定は後でまとめて受けられるんだ。今日はそれを受けに来た」


 なるほど。今どきっぽい。ファンタジーっぽさと現代っぽさが混じって混乱しそうだ。


「なんか向こうでご飯食べてるのは何なの?」

「ダンジョン解体人も体力仕事だし、歩合制だからな。解体人限定で安く飯が食えるようにしてくれてるのさ」


 へ〜、と声が抜ける。知らない……少なくとも私の中に残っている一般常識の中にこんな施設の存在はない……。


 もしかして私の記憶って、結構古い段階で止まっちゃってるの?


 それにしても、なかなかすごい活気だ。少し耳を澄ますと、誰かの豪快な自慢話や申請の不備を伝える職員の声が聞こえてくる。


「えーと。6番でお待ちの神凪……セイジさん!?」


 自動受付を終えて座っていたセイジを呼んだ職員の人が、何やら愕然とした様子で名前を読み上げる。


 それを聞くと周りの人々がざわつき、彼に視線を向け始めた。


「……な、何なにこの反応。セイジ、そこまで有名人なの?」

「ノーコメントだ……」


「お、おまたせしました。S級解体人の……神凪セイジ様、ですね」

「ああ。とりあえず8件分の解体報告と、またダンジョンストーンを幾つか溜め込んじまったから、精算してほしい」


 そう言うと、セイジは内ポケットからいくつかの袋のようなものをテーブルに無造作に乗せた。


 ゴトリ、と重い音がする。これ中身、もしかして全部ダンジョンストーン?


 またしても周りが静まり返り、そしてざわつく。


「マジかよ……あんなに……」

「どんなペースで……しかも全部1人の……?」


 セイジがすごい人物として有名なのは間違いないようだ。映画化もされてるわけだしね。


 そんな彼の隣にいることになんとなく居心地の悪さを感じつつ、慌てて職員が袋を回収するのを見つめる。


 周りの反応とセイジを交代で見つめる。そんな私の視線に気付くと、彼はため息を吐いた。


「キョロキョロするな。別に何も変なことはしてないからよ」

「だ、だって気になるでしょ……! めちゃくちゃ注目されてるし」

「堂々としとけ。金を受け取りに来ただけなんだから」


 しばらくして職員の人が帰ってくる。何やら長い領収書みたいなものを持っていた。


「お待たせしました……! ダンジョンストーンが213個、ダンジョン解体記録が8件。合計で報酬額はこちらになります」

「あぁ、確かに」


 セイジは差し出された領収書みたいなものをクシャッと握りしめ、適当にポケットに突っ込んだ。


 でも私は握りつぶされる直前に見ていた。そこに記された金額を。


 正確にはわからなかったが、少なくとも8桁。一番最初の数字は2だった。つまり……2千万円は払われてる、ってこと!?


「ダ、ダンジョン解体人ってそんな儲かるの……!?」

「いや。普通は体力的に月に1回か2回くらいしか行かないのが主流だし、そこまで儲からんぞ。平均年収は500万くらいだ」


 し、しれっと平均年収の4倍の金額を受け取るんじゃないよ!


「あ、っと。そうだ、ギルドに寄った理由はもう1つあるんだった」


 セイジは私を、ギルドのさらに奥の区画に案内する。移動する最中も視線が痛い……。


 移動した先は2階で、先程に比べて人が少ない場所だ。


 灰色のカーペットが敷かれ、仕切られた個室みたいなものがいくつかあった。


「新規解体人受付窓口だ。このままじゃ不便だし、お前にもダンジョン解体人ライセンスを渡しとこうと思ってな」

「ライセンス? でも国家資格なんだよね? 個人情報とか必要なんじゃ……」


 国家資格に詳しいわけじゃないが、とにかく名前も年齢も不詳の状態で取れる資格なんてそうそうないと思うが……。


「あぁ、もう話はつけておいた。――よう。S級解体人の神凪セイジだ。届いてるか?」


 セイジは受付のおじさんに親しげに話す。対するおじさんはやはり恐縮しきった様子だ。


 ……なんか、知り合いが思ったよりすごい人だって見せつけられる瞬間って、気まずい。


 とにかく彼はなにかカードみたいなものを受け取ってこちらに戻ってきた。


「ほら。お前の免許だ。とりあえず持っとけ」


 そう言ってセイジは私にカードを渡した。C級解体人……神凪ルカ……。


「……神凪……ルカ」

「…………」

「……神凪ぃ!?」


 ちょ、ちょっと待った! 神凪ってセイジの苗字じゃん!? 何この免許!?


「しょうがないだろ。苗字なしで申請はできなかったんだよ」

「だからってなんで同じ苗字!?」


 これじゃまるで、セイジと私がふ……夫婦――


「あー、はいはい、わかるよ。親子みたいで嫌だよな?」

「……ん?」

「だが関係者に話を通しづらかったんだよ。とりあえず俺らは親戚関係、養子縁組みたいな状態ってことにして申請したんだ。結果がそれだ」

「…………」


 なんか熱かった頭が急速に冷めていく。親子ねぇ。ふ〜ん。あぁそう。


「……どうした。何をむくれてんだ?」

「むくれてない」

「むくれてるだろ。こっち見ろよ」

「むくれてない! 見ない〜!」


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