第1部3章 過去が迫り来る

第1節 『大変革』

「――おい。起きろ、ルカ」


 それから意識を取り戻すと、私はどこかの室内で立っていた。


 カーペットもなければ壁紙もない、簡素な部屋だ。


 ほとんど家具は置かれていないが、本棚と机だけは置かれていた。あとは窓とカーテン……それだけ。


「……あれ? どこ、ここ」

「ダンジョンが解体されると、元々ダンジョンができる前にあった現実の空間に戻されるだろ。

 今回の場合なら、マンションの一室がダンジョン化してたわけだから、その部屋の中に戻されるってわけだな」


 ということは、ここは迷宮教の人間が借りていた家ということになるのだろうか? 何らかの手がかりがあるかもしれない。


「あ、その前に。セイジ、3階層でなにか拾ったって言ってたよね。何拾ったの?」

「ビデオカメラだ。お前がまた吐くとアレだから見せなかったんだが、3階層にも死体が結構いてな。そいつらが持ってた」


「ひ、人が四六時中吐いてるみたいに言わないでくれる!? アレはしょうがなかったっ……ていうか、ビデオカメラ?」

「死体の様子からするに、雑誌とか新聞社の人間だな。謎多き邪教に潜入捜査、ってとこだろ。死ぬ直前まで映像を回してたらしい」


 そう言って、セイジはダウンのポケットからハンディーカメラを取り出した。しばらく巻き戻したあと、映像再生が始まる――。


『――くそ。人が多すぎて教祖が映せねぇ』


 映像の最初は、そんな撮影者のぼやきと思われる声から始まった。


 確かに人の背中らしきものばかり映っている。マイクがハウリングする。


『お集まりの皆さん、どうも。私はブライト。この迷宮教の教祖をしています』


 聞こえてくるのはどこか中性的な声だ。口角が上がっているのか、どこか温和で笑っているような声色に聞こえる。


『さて、皆さんに集まっていただいたのは大切なお知らせをするためです。

 来たる12月の31日、大晦日に――私はついに、2度目の『大変革』を行います』


「……大変革ってのは、20年前に奴が起こした世界的大事件。世界中にダンジョンが大量発生するようになった現象のことだ」

「それの、2度目って……どういうこと?」


 カメラを見ながら解説してくれるセイジと、疑問を唱える私。それに答えてくれたのは映像内のブライトだった。


『1度目の大変革の当時、私にはまだ力が足りませんでした。ですが今は違います。

 今度こそ、この世のすべてを……この神の領域、ダンジョンで包み込むことでしょう』


 観客の信者たちが沸き立つ。世界中をダンジョンにする。この世のすべてをダンジョンで包み込む……。


 もしそうなったら、世界がどうなるのか、まるで見当もつかない。


 ブライトの持つアシストフォースは、ダンジョンを自在に改造する力だとセイジは言っていた。


 もし世界中がダンジョンに包まれたとするならば、ブライトはそのまま世界中のすべてを自在に改造することができるようになるわけだ。


 世界中全ての土地をブライトが管理し、自在に操作できるということになる。その割り振りも、気候も、高低も、景観も……。


 もっと言えば、どこにどれだけの罠やモンスターを配置するかも。


 世界中全ての人間の生殺与奪権を握ることもできる。それはまさしく神の所業だ。


 スケールが大きすぎて想像しづらいが、もし再度の「大変革」とかいうのが起きたとすれば。


 世界でブライトに逆らえる存在は――誰ひとりいなくなるだろう。

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