第10節 改造ダンジョン、解体
畑の近くにあった大きめの自動ドアのような場所から、さらなる階層へと足を踏み入れた私たちを迎えたのは、不気味な赤色のライトが光る広場だった。
これまでの空間と明らかに雰囲気が違う。あのモンスターが無限湧きする廊下を思い出す色合いだ。
壁には絵画のようなものが飾られているようだが、あまりにも抽象的すぎるうえに赤いライトでよくわからない。
床や壁は無機質なコンクリートでできており、汚れやシミ1つなかった。
「なんでここだけ怖い感じなんだろう? 信者のためのダンジョン、なんだよね?」
「他の迷宮教のダンジョンでもそうなんだが……信者のために解放されてるのは基本的に3階層までなんだよ。
4階以降は立入禁止だ」
その口ぶりからすると、彼は他の迷宮教のダンジョンにも入ったことがあるのだろうか。一体いつからこの宗教を追っていたのだろう?
そんな疑問を頭に浮かべつつ歩いていると、エンジン音がどこかから聞こえてきた。それはつまり――。
「ギュオオオオオ。ギュオオ!!」
「うわあぁ、また来た!?」
同じく、空気の漏れるような音を出しながら曲がり角を曲がって歩いてくる『リーパー』。その姿を見るだけで悍ましさにゾッとする。
「どういうこと!? さっきのヤツ、倒しきってなかったの!?」
「いや。全部の傷が治ってる。新手だ」
私は思わずセイジの後ろに隠れた。彼は怪物を指差すと、また弾丸を旋回させる。
「アシストフォース、生命破壊弾」
また殺意の高そうな名前の弾丸が撃ち込まれると、リーパーは断末魔の叫びを上げ、倒れた。
たった1発で。セイジ、あまりに強すぎる。雑魚みたいな勢いで倒されてくけど、リーパーってものすごく強いんだよね……?
■
ところが、このダンジョンはそう簡単には攻略されてはくれないようだった。
リーパーを倒してからしばらくすると、またエンジン音とともに新たなリーパーがやって来てしまうのだ。
「アシストフォース――連鎖破壊弾」
セイジが弾丸を撃ち込むと、新しいリーパーは弾け飛んで死んだ。
だけど、またしばらくして次のリーパー……。
セイジの手はだんだん全体が黒くなり始めていた。だというのに、リーパーが現れるまでの間隔はどんどん短くなっている。
「だ、大丈夫なの!? そろそろ能力、撃ち止めになるんじゃ……!?」
「まぁな。だけど気付いてるか? リーパーが出る間隔が短くなってる」
「気付いてるよ! だからやばいって話を――」
「リーパーは他では5階層でしか目撃情報がないんだ。
つまり、この改造ダンジョンだろうと、やっぱり5階層にしか現れないんだろうな。
1階層にいた奴は、5階層からはるばるやって来てたんだ」
「……?」
「まったく、相変わらず鈍いな。こいつらは5階層で生まれて、歩いて俺達に向かってくる。
つまり、逆にこいつらがどこから現れたのかを把握しておけば――」
そんなことを話しながら先導するセイジは、さらに曲がり角を左に曲がったところで、赤いライトの中の、青色のガラス製の大きなドアを発見した。
「5階層の入り口も見つけられるってわけだ」
「やった! これでとりあえず出られるね」
しかし、あの怪物たちはわざわざこのドアを律儀に手で開けていたのだろうか。想像すると、怖いがシュールだ。
……そんなことはどうでもいい。とにかく私たちはドアを開けた。
5階層、ダンジョンの最奥。どのダンジョンであっても例外はなく、とにかく5階層目で終わる。そういう仕組みらしい。
そこに足を踏み入れた途端、やはり胸の奥で「アシストフォースが使えるようになった感覚」があった。
セイジは私の前を歩き、部屋を見渡す。
最後の部屋は、狭い中に大量の檻が積み重なった猛獣部屋のような空間だった。
豆電球のような照明が天井にいくつかあるが、まるで部屋を照らせてはいなかった。
それらの檻にはいずれもリーパーが入れられていた。皆、大人しく体育座りで檻の中に収まっている。
部屋の中心にはくすんだ水色のポリバケツがポツンと置かれていた。
「なんだろ、このバケツ……。文字が書いてある?」
近付いてみると、バケツの表面には汚い黒いインクで文字が書いてあった。
内容は――「5分以内に、部屋の中にいる人間を1人にしましょう。さもなくば、すべてのリーパーが放たれます」……とのことだった。
試しにバケツの蓋を開けると、底に肉切り包丁が置かれている。
もう、これ以上の説明はいらないだろう。
つまりこのダンジョンの解体のためには……ここまで1人で来るか。犠牲を出すかのどちらかが必要になるわけだ。
「フッ、アホらしい……。こういう露悪的な仕掛けをわざわざ人間が用意してると思うと笑えるな」
「笑えないっての! それより、迷宮教の調査、ってのはどうだったの? ここまでの階層でなにか見つかった?」
「一応、3階層でいくつか拾った。が、この部屋にはもう何もない。閉じちまっていいぞ」
頷き、私は両手の親指と人差し指で四角形を作る。その間から黄金の光が溢れ出す……。
「アシストフォース、『強制攻略』」
――そして光に呑まれていく。迷宮教の「改造ダンジョン」は、多くの謎を残したまま解体された。
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