第9節 頂の力
お米様抱っこで走られたせいでぐるぐると回る視界で、辺りを見回す。
先ほどとは打って変わって洋風の景観だ。畳は灰色のレンガになり、天井からはシャンデリアのような照明器具がいくつもぶら下がっている。
天井は先ほどに比べると低く、3mほどだろうか。
ガラス張りになっていて、白々しいほど美しい青空から光が指していた。当然だけど、偽物の空だ。
豪華な四角の柱がいくつも立っていて、天使のような像があちこちに配置されている。
そんな広場から伸びる廊下は1つだけだった。まるで客を迎えるかのようにわかりやすい道だ。
「いかにもザ・宗教! って感じ。和風なのか洋風なのかハッキリすべきだと思うけどね」
「あちこちに寝袋が置かれてるな……。いわゆる居住区がここだったのかもしれん」
言われてみると、部屋の隅にいくつも段ボール箱が積まれていたり、布団が敷かれているスペースがある。
ここで教団員たちは寝泊まりしていたのかな? まるでホームレスだ……。
彼らはこの生活を本当に気に入っていたのだろうか?
そんな風に様子を見つつ、1本だけの廊下を進んでいく。
これまでのダンジョンに比べ、ここはいくらか小ざっぱりしているというか、現実的な風景をしていた。
ブライトが信者を住まわせるために改造したためなのだろう。
だとすればなおさら、どうして彼(なのか彼女なのかわからないけど、とりあえず彼と呼ぶ)が信者を虐殺したのかが理解できない。
教祖ブライトは一体何者なのだろう? どうしてあんなことをしたのだろう?
「見つけたぜ。第3層の扉だ」
「もう!? すごいあっさり見つかるね」
「そりゃな。ここは居住区なんだろう。人が住むためのダンジョンだから、複雑じゃ困るんだよ」
そういうものだろうか。とにかく私たちは、銀色の装飾がギラギラにされた、ホールにあるみたいな大きな扉を開けて次の階層に出た。
■
恐らく信者たちの食糧を供給していたと見られる第3層は、非常に広大な畑になっていた。
2階層とは違い、とてつもなく広い。地平線が見えるほどの田園風景で、何種類もの作物がここで栽培されていた。
それどころか、木でできた柵の中には家畜と思われる動物……豚や鶏も飼育されているようだった。
だが今は彼らはその場に腐っている。信者と同じように殺されたようだ。
「さっきのリーパーが暴れ回ったんだろうな」
「……そういえば、追ってこないね?」
「――ギュオオオオオ……!」
「そういうこと言うから、来ちまったみたいだぞ」
「わ、私のせいじゃないでしょ!」
「ああ。さっきの階層は狭かったから、運良く追いつかれなかっただけみたいだな」
セイジは振り向き、再びのそのそと歩いて寄ってくるリーパーに指を向けた。
彼がさっき言っていたとおり、その指はもう治っていた。
「あいにく、他の奴らは5階層の異常実体は5階層じゃなきゃ倒せない……なんて言うんだろうが、俺は違う。
ダンジョン攻略はゆっくりやりたい派でね。消えてもらおうか」
「ギュオオ――!」
「アシストフォース――重力弾」
彼が撃ち出したのは黒い粒のような弾丸だった。
それがリーパーに命中すると、そのモンスターは突然、内部から吸い込まれるようにして小さくグシャグシャに潰されてしまった。
そのぶん、絞り出された液体が辺りに飛散する。
「うわっ、汚っ! な、何今の!?」
「重力弾。当てた異常実体の内部に超重力を発生させて、体を折り畳むのさ。なかなかコスパがいいぞ」
そう言って彼は第2関節ほどまで黒くなった指先を見せた。なんか怖いからあんまり見せないでほしいんだけど……。
「それにしても、よかったー……! 心配して損したよ。やっぱりセイジは強いね!」
「へっ、当然」
ともかく、ボス? を早めに倒してほっと一息ついた私たちは、そのまま4階層へと進むことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます