第12節 未発見ダンジョン
――それから、日曜日。
私とセイジは早起きして電車に乗り、あるダンジョンに向かうことになった。座席に座りながらあくびをする。
「ふわぁ〜〜〜〜……。なんでこんな朝早くに行くの? 私、毎日8時間は寝てたいんだけど」
「うるせぇお子様だな……。『迷宮教』の情報を掴んだんだよ」
「……!? め、迷宮教!?」
そういえばすっかり忘れそうになっていた。私の記憶の重要な手がかりだ。
セイジが何も言わないので、情報が掴みづらい相手なのかなぁ……とか勝手に納得してたけど。
電車に乗りながら、セイジは色々と教えてくれた。
セイジが言うには――迷宮教は、その名に違わずダンジョンを根城にしている宗教集団なのだという。
現実世界は穢れているとして、ダンジョンで自給自足の生活をするのが美徳なのだそうだ。
しかし国の見解として、ダンジョンは解体すべきものであって住む場所ではない。そもそも危なすぎるし。
そして国がダンジョン解体を推し進めている以上、真っ向から逆らうのも難しい。
じゃあダンジョンに住むなんて無理な話だと思うかもしれない……そこで、教祖『ブライト』の能力が関係してくる。
『ブライト』のアシストフォースは「ダンジョンルーラー」と呼ばれている。
ダンジョンを思うように作り変えてしまう恐るべき力なんだそうだ。
それを利用して、内部のモンスターを少なくしたり、外からダンジョンとわかりづらく偽装したりしている。
だから、迷宮教の人々が住んでいるダンジョンは基本的に国がまだ見つけていない「未発見ダンジョン」。
セイジは今回それを見つけたらしい。どうやってその情報を掴んだのだろう?
「ま、色々コネはあってな。それでも情報が入るまで1週間かかっちまったが、ようやくお前の記憶探しに本腰を入れられそうだ」
「よかったぁ……忘れられてるのかと思ってたよ」
「お前な……」
そうして電車に揺られること……なんと3時間。
私たちは東京から愛知県の奥の方までやってきてしまった。
背中とお尻が痛い。隣ではセイジが背中をバキバキ鳴らしながらおっさん臭く伸びをしている。
降り立ったのは、ずいぶん平べったい駅舎の駅。一応有人駅だが、周りには明らかに何もない。
コンクリートで固められた駐車場、タクシー乗り場、自動販売機。
ここに住んでいる人には申し訳ないが……はっきり言って田舎だ。
高い建物はほとんど見えず、マンションが1つ。あとは平屋建ての建物がまばらに見える。
「朝早い理由がわかったか? 終電がなくなるからだ」
「ていうか……前から言おうと思ってたけど、なんで電車移動なの!? 車とか新幹線使おうよ、お金持ってるんでしょ!?」
「バカ言うな、俺は倹約家なんだよ。無駄金は使わない主義!」
「無駄金じゃないでしょ! セイジの背中と私の首とかお尻のためにお金払うべき!」
「やぁ! あー……お取り込み中?」
ギャーギャー言っている私たち(言ってるのは私だけ)に、黒い丸サングラスをかけた男の人が近付いてきた。
金髪の髪をウニみたいにあちこちに尖らせて大きな口で笑っている。
服装は上下ともにチェック柄の甚平。……今は12月で、かなり肌寒い時期なのに。
履物が革のブーツなのもミスマッチすぎて意味不明だ。
「ね、ねぇセイジ。カリスマ詐欺師みたいな人が話しかけてきたけど」
「聞こえてるよルカちゃん! ギリギリ貶してるねそれ」
「落ちつけ。見た目は怪しいセミナー開いてそうな奴だが、俺がよく利用する情報屋だ」
「クライアントにまでコケにされるとは思わなかったよ! 僕は白虎。よろしくね。
君がルカちゃんだよね? セイジから話は聞いたよ」
彼はフレンドリーに手を握ってきた。……情報屋。胡散臭さがまるで減らない正体を聞かされて困惑する。
白虎というのも明らかに偽名だろう。まぁ、私の「ルカ」も仮名だけど。
「いやー、実はセイジから色々と依頼を受けててね。君が着てる制服がどこの高校なのか調べたりとか色々してたんだけど」
「は、はぁ」
制服? ……そういえばそうか! 制服は学校によって違う。私の身元が特定できるかもしれないのか。
「が、残念。オーダーメイドなのかねぇ。君が着てる制服と同じものは日本にはなかったよ」
「えー……そっかぁ。……ちょっと待って。つまりコスプレってこと?」
「かもね! アハハ!」
ア、アハハじゃないよ! どうしよう。現役じゃないのに制服着てたらなんかショックなんだけど!
「で、白虎。教団のダンジョンってのはどこだ?」
「いやー、手に入れるのにずいぶん苦労したんだよこの情報!
何しろ連中は基本的に外に出ないからね。ただ、今からだいたい2週間くらい前?
連中が外に出て、買い物をして帰ってきてたらしいんだよ」
「買い物? みんなで? パーティーでもするの?」
私たちは白虎さんの案内を受けて歩きながら話していた。
そこそこ歩いているのに、見かけたコンビニは1軒だけだ。すれ違った人数は3人。東京とはすごい違いだった。
「当たらずとも遠からずってところだ、ルカちゃん。どうも連中のところに教祖が視察に来る予定があったらしいんだよ」
「……ブライトが?」
私が首を傾げたのに対し、さらに白虎が追加で説明してくれた情報によると……そもそも、迷宮教のダンジョンは全国あちこちにあるそうだ。
教祖ブライトはどこかに留まっていることはなく、あちこちのダンジョンにたまにふらっと視察に来るらしい。
それで、信者の困りごとを聞いたりして解決するんだとか。
「それで、教祖様歓迎パーティーのためにいろいろ買い込んだんだと。
自給自足とか言ってるけど、この日くらいは例外だったんだろうねぇ」
「それで、その教祖はまだいるの?」
「いやぁ、教団員が見つかったのが2週間前だからね。教祖が来たとしても、もうどっかに行ってると思うよ」
「そっか……教祖に会えたら一番わかりやすいかと思ったんだけどな」
とはいえ、教団員と接触するだけでもだいぶ知れることは多いはずだ。
教団員であることを示すこのバッジがあればそこまで邪険にされることもないだろう。
私は制服の胸あたりに、卍マークみたいなバッジを付け再び歩き出した。
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