第11節 そんな日々③
――金曜日。ダンジョンの日。
今日は群馬県の上毛高原という駅の近くの、線路上にできてしまったというダンジョンを訪れていた。
線路上にダンジョンができるのは比較的珍しいが、決してないことではないらしい。
当然だが、そんなものが出来てしまうと電車は走れなくなる。無理に走らせたら電車ごとダンジョン突入だからだ。
電車ってちょっと止めるだけですっごい損害額が出るみたいだけど……ダンジョン化は自然現象だからどこにも請求できなくて大変みたいだ。
「……にしても、ダンジョンの3層が電車とはね。もうホント、なんでもありって感じ」
私たちは駅構内みたいな見た目のダンジョン2階層から電車に乗り込んだ。どうやらここが3階層になっているらしい。
「だな。なんでもダンジョンを研究してる偉い先生とかによると……ダンジョンってのは、人間の集合的無意識によって生み出されてるだとか。
現実世界の使われていない領域で、デバッグルームみたいなものだとか。
色々な説が囁かれてるが、結局何もはっきりしたことはわかってないんだそうだ」
確かに、こんな無秩序すぎる空間だ。何を分析したところでわかるわけもない。
それでも、モンスターが持つウイルスのこととか、それを利用したワクチンとか……十分調べてる方だろう。
5階層にきっちり分かれてるとか、階層に応じてアシストフォースが強まるとか、妙にきっちりルールができてる部分もあるみたいだけど。
話を今のダンジョンに戻そう。3階層は走る電車だ。
電車内に明かりはなく、窓の外も真っ暗。たまにライトの近くを走るらしく、不定期に車内が照らし出される。
で、問題なのが……車内には罠が仕掛けられてるっぽいことだ。
床とか座席に、ちゃんと見ればわかるようなボタンがある。
それを踏むと、近くの窓が割れてガラス片とか木の枝とかが入ってきてしまう。セイジが2回ほどそれを受けてしまった。(なぜか無傷だけど……)
試しにセイジが持っていた懐中電灯で床を照らしてみたが、何故か明かりはつかない。
つまりこの階層では、たまに入る窓からの光で床を照らし、罠を踏まないように慎重に進まなければならないのだ。
「気をつけてね、セイジ! とりあえず動かないで、次の光が来るのを待とう!」
「アシストフォース、照明弾」
パッ……と、車内全体が強い光で照らされる。まるで真昼のようだ。スイッチもすべてよく見える……はっ?
「なるほどな。外部のアイテムは使えないってだけで、アシストフォースまで阻害する効果はないらしい。これで普通に進めそうだ」
「……そうだね……」
セイジがつまんない男なので、この階層もあっさりクリアできた。風情が……ない。
■
――土曜日。世間一般でも休みであるこの日、私たちは映画館にやって来ていた。
この黒くて広い映画館の入り口の感じ、なんだかダンジョンに似てるかも……とか思ってしまう。
最大の違いは人がたくさんいるところだ。楽しそうにジャンプする子供とか、制服姿のカップルとかがいる。
重低音の映画宣伝音声とかBGM、映画館での案内などがうっすらと聞こえてくる。
「映画ねぇ。昔は結構見たもんだが、最近はからっきしだな」
「そうなの? 1人で見に行ってたの?」
「なんで1人って決めつけたんだよ。俺だって映画を見に行く相手くらいいたさ。2人でな」
「えっ!? そ、それって男の人? 女の人?」
「……女だ」
ガーン! なぜだか強いショックを受けてしまった。セイジが、女の人と……!? 人間見習いみたいなこの人が映画館デートを……!?
「そ、その人どんな人!? いつの話?」
「高校生の頃だ。20年以上前の話だよ……んなことより、さっさと映画選ぶぞ。何が見たいんだ?」
「あ、うん。えーっと……あっ、これなんだろう? 『ダンジョン調査隊の一日』……ドキュメンタリー映画だってさ」
「普段やってることだぞ……」
「じゃあこれとか? 『ダンジョンを溶かす恋』」
「やべぇだろ……太陽ばりの高温だぞ……」
文句ばかりつけるセイジ。それにしてもダンジョンは結構な人気らしい。
映画の候補はだいたい20個くらいあるが、そのうちの1/4くらいはダンジョン関連の映画みたいだ。
無理もない。ダンジョンというものが現れたのは20年前らしいし、人類の歴史から見ればまだまだアツアツのコンテンツだろう。
そうして候補を見ているうちに、私は面白いものを見つけた。
「み、見てこれ! 『S級解体人』だってさ! しかもこのポスターに映ってるのセイジじゃ……むぐっ!?」
「やめろ……! マジでやめろ……!」
いつになく必死に私の口を塞ぎにくるセイジ。何なに、そんなに嫌なの!?
「ぷはっ……! もう、何すんのよ!」
「シーッ……! わかるだろ? それなりに人もいるんだ。俺が自分題材の映画を見に来てるイタい奴だと思われるだろ!」
自分題材? あ、ホントだ。よく見たらセイジ本人じゃなくて似てる俳優のようだ。本物より1段階ほどイケメンになっている。
「へー……なんか取材とか受けてたの?」
「ああ……あと協力感謝っつって試写会にも招待されたが……ぐっ……」
心底具合が悪そうに頭を抱えるセイジ。そんな嫌だったのかな……。
「……ど、どんな出来だったの」
「映画映えのために、どうでもいいエピソードがめちゃくちゃデカく扱われ……重要な話はすっ飛ばされた……。
あとバカみたいにクッサイ台詞ばっか言ってたし……俺はあんなんじゃねぇ……」
「……ああ……」
なんかあるあるな話な気がするなぁ……いや、よくわかんないけど。
とりあえず、見てみたい気持ちはあるが……セイジを苦しめるのは本意ではないので、『ダンジョンを溶かす恋』を見ることにした。
映画はつまんなかった。
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