第5節 そんな日々①

 今まで意識してなかったけど、暦の上では今はもう12月だ。


 今はまだ上旬だけど、すでに世間はクリスマスムードで、夜になるとイルミネーションが光っていたりする家もある。


 そんな中で、私たちはぎこちないながらも、少しずつ一緒の生活というものに慣れ始めていた。


 記憶をなくして困っている割には、私はずいぶん楽しく日々を送っている方だと思う。


 それもこれも、助けてくれたセイジのおかげかもしれない。本人にはなかなか言えないけど……。


 これはそんな私の1週間の話だ。



 ――月曜日。朝から神奈川県の横浜駅に向かい、私たちは駅構内のレストラン街にできてしまったというダンジョンの解体を行った。


「しっかし、元からダンジョンみてぇな場所に本物のダンジョンができるとはな」

「元から? 横浜ってそんなだったっけ?」

「あぁ。道路がやけに太くて歩きじゃ横切れなかったりするから、地下に潜る必要があってな……上下移動が激しいダンジョンって感じだ」


 へ〜、と声を漏らす。ダンジョン内部は赤提灯があちらこちらに下がっていて、棚には緑色のゼリーみたいな料理とかが陳列されていた。


 どれだけ進んでもレストランが途切れることはないが、奥に進むほどに見知った店はなくなっていく。


 最終的には「にんげん屋」だの「Sharecoube(しゃれこうべ)」だのよくわからない店になり始めていた。


 陳列されているのも、なんだか灰色がかった生肉だの、明らかに人の手の形の骨に肉が刺さっているだの、不気味なものばかり。


 提灯も明るくなったり暗くなったり、照明の接触が悪くなっていく。


「そういや、解体し終わったら昼時ぐらいかもな。ちょっと腹減ってきたぜ」

「え? にんげん屋を見て食欲湧いたの?」

「レストランに変わりはないしな。何食いたいか決めとけよ」

「今そんな気分になれないんだけどぉ……!」


 ……その日は結局、ダンジョン解体を終えた直後の、人がまだ入ってきてないレストラン街で食事をした。


 食べたのは美味しい揚げたての天ぷらだった。横浜って意外とどこもかしこも中華料理があるわけじゃないんだね。



 ――火曜日。昨日はダンジョンに行ったので、本日はお休みだ。


 私たちは大きめのショッピングモールにやってきて、その中の服屋を訪れていた。


 よくよく考えてみれば、私はほとんど服を持っていない。年頃の女子としてそれはどうかと思うので、セイジと共に服を買いに来たのだ。


「ほら! コレとかどう思う?」

「あ〜……いいんじゃないのか? ハイハイ、いいと思う」

「ちょっと、真剣に見てよ!」


「男の嫌いなものはなんだか知ってるか? 3位が恋バナ、2位が女の買い物の付き合いなんだぞ」

「偏見極まりないよ! それただのセイジの好き嫌いでしょうが!」


 冬用のコートをせっかく買おうとしているのに、セイジはまるでこちらの服装を見るつもりがない。


 基本的には私が自分で判断するとはいえ、最終的に他の人の答えも聞いておきたい……そんなときもあるのだ。


「じゃあさぁ。セイジもついでに服買いなよ! いっつも同じ服着回ししてない?」

「男は上と下をちゃんと着てりゃそれでいいんだよ。いちいち着飾るのは女の役割だ」

「は〜〜、前時代的な発言! S級解体人がそんな発言したら炎上するよ?」


 そんな“男”セイジにおすすめの服を見繕ってあげて、彼の体の前に合わせる。


 いつもいつも黒いダウンばかりだから、そのイメージを払拭できるものを選んであげよう。


「というわけで、このアロハシャツどう?」

「どう? じゃねぇ。どこに着ていくんだよこんなもん。つーか、よく冬に売ってたな!」


「じゃあこれは買うとして……アロハに合わせるジャケットとかも買わないとね」

「買う方向で進めるなよ。おい! 着ないからな!」


 その日はアロハシャツ2着とジャケット3着、ズボンを2つ。

 私のぶんはコートを2着、スカートを3着、ジャケットとかを買ったのだった。


 結構大量に買った気がするけど、セイジの懐は全く痛んでいない。やっぱり持つべきものは金なんだなあ……と思った。

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