第3節 ダンジョン巡り④

 這い寄る蜘蛛を撃ち殺してダンジョンストーンを回収したセイジは、それからも洞窟を進んでいく。


 彼がさっき言っていた「これまでの道は全部頭に入っている」というのはどうやらフカシではないようで、時折道を引き返したりしながらもどんどん奥へと進んでいく。


 少し悔しいがこれが大人の力。経験の差というものだろう。


 ていうか私、このダンジョンで何やってたっけ? 文句言いながら歩いて蜘蛛に絡まれただけな気がする……なんか落ち込んできた……。


「どうした? 自分はただ着いてきてるだけで役に立ってないんじゃないかみたいな顔して」

「どんな顔よ! ていうかそこまでわかってるなら聞くことないでしょ!」


 意地の悪そうな半笑いを浮かべ、セイジは私の頭に手を置く。


「心配するな。最初から役に立ってもらおうと連れてきてるわけじゃねぇ。ただ、何かと俺と一緒にいたほうが安全だから連れてきてるだけだ」

「……安全? どういうこと?」


 そう尋ね返すと、セイジは何か気まずそうな顔をした。


 この日本で一緒にいたほうが安全、なんてことあるんだろうか? しかもこの危険極まりないダンジョンの中で?


「気にすんな。ホラ、次の階層だぞ」


 そんなことを考えているうちに、洞窟の中に突然錆びついた扉が現れた。


 ドアノブまでしっかり赤茶色に変色したドアを開く。ギギイ、と激しい音が鳴りながら開いていく。


 ――すると、視界が真っ白になる。同時に激しい冷気が吹き込んできた!


「わっ、寒っ! 何なに!?」

「あ゛〜、そういうタイプの場所か! 今だルカ、急げ! アシストフォースだ!」


 一歩足を踏み入れると、肌が露出した部分が容赦なく冷えはじめる! 真冬の温度、いやそれ以下だ。凍りつきそうだった。


 同時に体の中に、あのときと同じ感覚がある。やっぱり私のアシストフォースは、5階層まで来てようやく発動するもののようだ。


 とにかく、指で長方形を作り、アシストフォースを発動させる。指の間に生まれた四角の隙間に金色の光が溢れ出す。


「アシストフォース! 強制攻略!!」


 光に全てが包まれていく。吹きすさぶ寒風が少しずつ和らぎ、寒くなくなっていく……。


 ――ざわついた人の声。コンクリートの乾いた匂い。太陽の暖かみ……。現実世界の感覚が少しずつ戻っていく。


「神凪様! ダンジョン解体確認しました。お疲れ様でした!」

「さすがはS級解体人ですね……! すごい速度での解体でした!」


 外には灰色のツナギみたいな服装の男の人が2人いて、セイジを出迎えた。


 声からして、ダンジョンに入るときに受付をしていた2人のようだ。そういえば、さっきもS級とかなんとか言ってた気がする……。


「S級? ってなんですか……?」


 面倒そうに彼らから距離を取ろうとするセイジ。その隙にこっそりと1人に声をかける。


「知らないのかい? ダンジョン解体人にはランクがあってね。

 これまで解体してきたダンジョンの数や、ダンジョンの難易度、アシストフォースの能力……その他いろんな項目によって評価される制度なんだ。


 見習いのE級から始まってD級、C級……B級にもなると、ダンジョン解体だけで生活ができるくらいだね。

 基本的には最高位はA級……。非常に優秀で、ダンジョンが多い日本でも40人くらいしかいないんだ」


「じゃあS級って……」

「本当に珍しい、特別枠みたいなもんだね。世界でも5人くらいしかいなくて、日本にはセイジさんだけなんだよ」

「へ、へえぇ〜……!? そんなすごい人だったんだ、セイジ……」

「おい、ルカ! 早く帰るぞ」


 遠くからセイジが大きな声で呼びかける。迷子じゃないんだから、もう。私は小走りでそちらに合流した。


「何話してたんだ?」

「セイジは意外と凄いんだなあって話……」

「ああ……S級の話か。まぁそういうことだ。

 だから別に、お前が役に立ってないとか弱いとかってわけじゃないから気にするな。

 ……俺が強すぎるだけだからな!」


 な、なんか素直に受け止められない自分がいる……! 確かにセイジが強いのはわかるけど。なんとなく、こう……!


「ま、そんな強すぎる俺でも、この前みたいに5階層で詰んだり、さっきみたいに寒い目に遭いたくなかったりはするんだよ。

 5階層に入りさえすればなんでも即攻略できるってお前の能力は、保険としてめちゃくちゃ優秀だ。だから自信持て」


 そんな言葉をかけられると、なんだか胸が熱くなり頬が緩んでしまう。


 でもこんな顔をセイジに見せたくないなぁ。早歩きで歩きながら視線をあちこちに向ける。


 コンビニ、ファミレス、歯医者、ビル、なんかオシャレな服屋……あとたい焼き屋が目に入った。


「へ〜。じゃあ私に自信持たせるためにたい焼き買ってよ。お腹空いちゃった」

「……だめだ。せめて昼メシ食ったあとにしろ」


 えー、と唇を尖らせながら、私は代わりに昼ご飯の店を見回すことにした。

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