第3節 ダンジョン巡り②

 団地にはやはりというかなんというか、人の気配がまったくなかった。


 というより、人がかつていた、という形跡すらもない。


 床のレンガや花壇は、特別どこかが欠けた様子もない新品のものだ。


 完成品のまま人がいない団地。鳥の声もなければ風も吹いていない。なんとも不気味な雰囲気だった。


「……ここも外れだね」


 いくつもあるマンションのうちの1つの前に立っていた私たちは、その入り口の自動ドアが開かないのを確認し引き返した。


 ダンジョンの階層は必ず仕切られている。


 だから、おそらく次の階層へ行くためにはこのマンションのどれかに入る必要があるだろう。それがセイジの推理だった。


 そのためにあちこちのマンションを新聞配達のごとくハシゴしていく。足が疲れる……。


「……おっ。ここが当たりみたいだな」


 ブイー、と音を立てて自動ドアが開くマンションがあった。

 入ると、マンション内掲示板と書かれたコルクボードに何本もナイフが突き刺さっている。


「何なに……こわいなぁ」

「過激なご近所トラブルだろ。一応回収しとくか」


 そう言ってセイジは刺さっていたナイフをすべて回収し、ポーチみたいなものに入れていった。


「ダンジョン内の物は無から現れてるらしい。こういうナイフも持ち帰って溶かせば、鉄として再利用できるのさ。

 限りある地球の資源と違ってどこかから無限に現れるダンジョン資源は買いたがる企業も多い」


 へえぇ、と感心しながらナイフを回収する姿を見る。最後の1本のナイフを抜くと、ボードから赤い液体が溢れ始めた……!


「わぁ! 何なに!?」

「はいはい、次行くぞー」

「ちょっ、塩対応すぎるって!」


 もう慣れてしまったのか、セイジはそんなホラーな風景を見ても眉一つ動かすことなく先へ進んでいく。


 どうやらこのマンション自体が2階層のようで、たまにカンカンと廊下を歩く音や、う〜う〜唸る声があちこちで聞こえてくる。


「次の階層はどこにあるのかなぁ。やっぱりこのマンションの一室のどれかとか……?」

「ま、多分そうだろうな。そう悪く考えるな。自分を電気点検の人だと思え」

「それなんの解決になるの!?」


 ……そうして電気点検の人のようにひたすらドアをガチャガチャする。


 マンションの階段を2回登ったところで、ついにモンスターと遭遇する。


 タール状の液体のようなものに塗れた、猿みたいなモンスターだ。


 それが天井をひたひたと歩いてくる。そのモンスターだけ重力が逆転しているかのように。


「何あれ……!」

「異常実体、ゴルドー。壁面ならどこでも移動できる。発してる液体が粘着質で、本体を殺さない限り絶対取れなくなる」


 言いながらセイジは猿に指を向け、無感動に撃ち殺した。倒すのが早いんだよねぇ……。


「よし、開いたぞ。ここが次の階層だな」


 手早くダンジョンストーンを回収し、流れるようにドアを開けたセイジ。風情がない。早く終わるのはありがたいけども。


 もう少しなんというか、探索したりしないのかな!?

 それともダンジョンって言葉に引っ張られてる私が非常識なだけで、こういうRTAが世間一般のスタンダードなのかな!?


「なんだよ、不満そうな顔しやがって。靴ずれでも起こしたか?」

「いや別に、文句はないんだけど……すっごいサクサク進むなぁって思ってね?」


「……ほぉ。つまりお前は隅から隅まで歩き回ってキッチリマッピングしてから進みたい、と?」

「い、いやいや! そこまでは言ってないからね!」


「いやいや。お前がやりたいならいいんだぞ? 一応資源も集まるっちゃ集まるから、やりたければそうやって行ってやったっていいんだ」

「いやいやいや! 早くていいよ、早さバンザイ! 早く終わるに越したことはない!」


「いやいやいやいや」

「いやいやいやいやいや」


 ……馬鹿なことやってないで次の階層に行こう!

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