第1部2章 凸凹の道

第1節 手がかり

「お風呂上がったよ〜」


 それからセイジの案内に従って彼の家に転がり込んだ私は、早々に風呂を借りていた。


 ダンジョンで水に浸かったり走ったりして体が冷えたし、疲れていたからだ。


 セイジは「男の家に来て早々風呂に入るかフツー」と呆れ返っていたが……。


 ひとまず下着だけ替えて、一張羅の制服を着直したら髪を拭きながらリビングに向かう。


 彼の家はマンションの一室だった。と言っても、そんじょそこらのマンションではない。


 タワーマンションみたいな、入り口がオートロックで共通廊下にホコリ1つないすごい感じのところだ。


 この部屋の中だって、清掃が行き届いていて廊下部分がやけに広い。


 家具も冷蔵庫やテレビ、大きめのコンポ? みたいなものとか、生活必需品っぽいものは一通り揃っているように見える。


 まるで高級ホテルみたいというか、モデルハウスみたいにオシャレだ。


 本当にここが日本なのか怪しくなるくらい。アメリカの有名人の家とかじゃないの、これ?


 風呂のバスタブもなんかジャグジーのような機能がついていたし、シャワーも粒が細かい……よくわからないが高級そうなものだった。


 明らかに男用のシャンプーとボディソープしかなかったのだけは不満だが、流石にそれに文句を言うのはわがまま過ぎるというものだ。


 肝心の部屋の主はリビングの端でパソコンとにらめっこしていた。


 ディスプレイはテレビ並みに大きい。キーボードがやたらに薄く、透き通っていた。


「どう? 見つかった?」

「いや。問い合わせもしてみたが、お前の登録はないってよ」

「ええっ、そんな!」


 私が風呂に入っている間、彼はダンジョン解体人の登録をしている国家運営のサイトを調べてくれていた。


 ところが、空振り。ヒントがなくなってしまった。そんなあ……。


「一応、国家の認定を受けてないダンジョン解体人……スカベンジャーと呼ばれてるような奴らをまとめた組織もいくつかあるが、小規模なもんだ。一応調べてはみるが、期待するなよ」


「うう〜……。じゃあ一体全体、なんで私はダンジョン内で寝てたわけー?

 しかも例のアシストフォースとかいうのも使えるのに、解体人登録してないなんてことあるの?」


「……基本的には……ない。ダンジョン発生以降、登録した奴以外はダンジョンに入れないわけだからな。ワクチンも登録解体人以外は基本打てない」

「基本基本って。すごい例外があるみたいに聞こえるけど?」


「さっきも言ったように、違法にダンジョンに入ろうとする奴らはいる。

 この世界にはない資源が見つかるし、ダンジョンストーンもあるから、金になるんだよ。それに、裏取引とかもやりやすい場所だしな」


 よくわからないが、いわゆる反社会的な人々もダンジョンに価値を見出してるのだろうか?


 何だか怖くなってくる。それに私が公的に登録されてない解体人ということは、もしかしてそういう所で働かされてたりしたのだろうか……?


「もうちょい手がかりはないのか? 制服のポケットとか探してみろよ」


「ええ〜? そんなまさか。これで生徒手帳とか出てきたら私バカみたいじゃ〜ん」


 ……なんて笑いながら言ってみるが、内心冷や汗をかいていた。まったく発想になかった。


 確かに女子高生の制服には大量のポケットがある。胸ポケット、上着ポケット、内ポケット。私の身元を表すものも入っているかもしれない。


 ……入っていたらどうしよう? いや、嬉しい。それは間違いなく嬉しいことなんだけど。


 セイジとの記憶復活までの共同生活とやらが始まった瞬間終わることになる。


 いや、全然構わないよ? 全然構わないんだけど、さすがに気恥ずかしいというか、なんか面白みがないというか……とにかくポケットをあちこち探った。


 結果として……左の上着ポケットに、何かが入っていたのを見つける。


「ん……? なんか小さいもの入ってる」


 少なくとも生徒手帳とかではない感触が手の中にある。取り出してみたそれは、一円玉程度の大きさの金属だった。


「何だろこれ。バッジ……?」


 丸い部分に模様が掘られ、その裏に服に留めるための金具が付いている。


 やはりバッジらしい。弁護士バッジを付けているのが弁護士であるように、それを付けている人間を特定する効果がそれなりにあるはずだ。


 けれど、そこに掘られた模様はよくわからないものだった。


 「卍」の記号の先を枝分かれさせて迷路にした、みたいなマーク。


 一体どこの何を表すものなのだろう?


「セイジ。これ何なのかわかる?」

「……!」


 バッジを見せると、彼は目を薄く見開き驚いた様子を見せた。


「それは……」

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