第5節 5階層・強制スクロール③

 蹴っても、体全体で押しても出口のドアだった場所は開かない。


 分厚いコンクリートを叩いたときのパスンパスン、という音が聞こえるだけだ。


 さらに壁面は特別な加工がされているらしく、セイジさんのアシストフォースで撃っても傷一つつかなかった。


 万事休す。廊下はすでに牢屋から解放されたモンスターで溢れていた。


「アシストフォース、貫通弾!」


 セイジさんが撃った弾丸が大量のモンスターを貫く。それだけで何匹かは殺せたはずだ。


 だがまだ多くのモンスターが生き延びている。


 その上どうやら、この階層のモンスターは数に限りがない。


 セイジさんがもう何十匹も殺したはずなのに、無限にモンスターが湧き出し続けている。


 いかに彼が強くても、いつまでもこの数相手に戦い続けるのは無理だ。


 出口のない廊下で無限に出てくるモンスターと際限なく戦い、いずれ力尽きて、殺されるしかないのだろうか?


 ――いいや、違う。


 それは違う、と内なる自分が語りかけてくる気がする。痛む体を立ち上がらせ、指から弾を撃ち続けている彼の背に話しかける。


「ねぇ、セイジさん。私……このダンジョン、『攻略』できるかもしれない」


 セイジさんはその言葉を聞くと、下を向いたまま目を開いた。


 思っていたリアクションとは少し違う。彼はそのまま低い声で続けた。


「どういうことだ? あのドアを開けられるのか?」

「ううん、違うの。けど、『攻略』はできそうな感じがするんだ。

 ……何言ってるかわかんないと思うけど、とにかくそういう感覚っていうか」


 そういう意味不明な説明を、つい最近聞いた。そうだ。他ならぬ彼が言っていたのだ。


「使える感覚があるなら使えるだろうし、使えなさそうなら使えない」。


 そして私は今、この階層に来てからずっと、「使える」感覚があるのだ。


 とはいっても、こんなメチャクチャな状況じゃなければ試しもしなかっただろう。これが活路であるという確信もない。


「……やってみろ」


 それでも、セイジさんはサインを出した。


 子供の戯言じゃなく、賭ける価値があると判断してくれたのだ。


 モンスターたちの金切り声が響く地獄絵図の中で頷き、両手の親指と人差し指で四角形を作る。


 ――その中心に金色の光が現れ、みるみるうちに強くなっていく。


 光がすべてを塗りつぶしていく。赤い警報も、無機質な壁も、恐ろしいモンスターたちの姿も。


 すべては光の中に。これが、私のアシストフォース――


「アシストフォース――『強制攻略』!」


 ――できると思ったことをやった。


 その名前も、そこに至るまでの工程も、体が覚えているかのようだった。


 そうして発動した私の「アシストフォース」はすべてを優しく消し飛ばしていく。


 視界の次は音が消えて、床の感覚が消えて、無重力の空間に放り出されたかのようで。


 ――その光が晴れると、私の耳に風の音や、車が道路を走る音が聞こえてきはじめた。


 すっかり光が消えるとそこは牢屋でも、廊下でもない場所だった。


 屋外。ボロボロの木造廃墟のような建物の前に私は立っていた。そこはダンジョンの外だったのだ。


 アシストフォース、強制攻略。


 その能力は、ダンジョンの無条件解体だ。

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