第9節 5階層・強制スクロール②
腕が熱い。胸が痛い。脚が暑い。息が苦しい……。
必死に走りながら、そういう弱音を頭の中で潰す。今はとにかくどこが痛んでも走らないとヤバい!
「――オハヨウゴザイマスッッ!!」
気味が悪い甲高い声とともに、ずっと後ろで何かが砕ける音がした。言わずもがな、氷の壁が破られたんだろう。
恐怖心に負けて後ろを見る。そこには草食恐竜のように首が長くて太い、人間みたいな何かが走ってきていた。
長すぎる頭を左右にブラブラと揺らしながら不安定な姿勢で、左右の壁にガツガツと激突しながら走ってくる。
なのに、速い。車並みに速い……!? ヤバい、追いつかれる!
「オハヨウゴザイ――」
「アシストフォース、洗脳弾! お仲間に襲いかかってろ!」
「アアアアッ、オハヨウゴザイマスゥゥゥッ!!」
次の弾丸を撃ち込まれたモンスターは、勢いよくUターンしていった。
……それから背後で悲鳴じみた声とグチャグチャした肉の音が聞こえてきた。
すご〜く嫌な気分になったなぁ……。Uターンしてなければあの肉の音鳴らしてるのが私だったってことぉ……?
ちょっと涙が出そうになってきたが、とにかく走る、走る。
このペースなら、映画みたいにかっこよくスライディングすればなんとかなるかも。それくらいには出口が近付いてきた。
しかし。ガチャン、と前方の牢屋が1つ、開く。
ヌッと身を屈めながら廊下に出てきたのは、天井ギリギリ……だいたい5メートルくらいの巨大なモンスター。
スベスベした灰色の皮膚。4本の腕に2本の足。頭は動物のゾウ……どこかで見たような神様に似ている姿だ。
4本の腕のうち2つを合掌させると、その象の周りに雷のようなものが纏われ――
「――ブオオオオォォォォ!!」
「うるせぇぞ、どけ! アシストフォース、消失弾!」
走りながらセイジさんが黒い弾丸を撃つ。それは音もなくゾウモンスターに命中した。
すると、その巨体が跡形もなく消滅した……! 何それ!?
「今のモンスター、何かやろうとしてたのに! 塩試合すぎる!」
「んなこと言ってる場合じゃねぇだろ!」
そりゃそうだ、こんなこと言ってる場合じゃない!
出口はもう近い。もう半分以上扉が落ちてしまっている。だけどこれなら間に合う!
「あと少しっ……がっ!?」
――そのとき、強烈な酸欠感で足が止まる。首が痛い。何かの感触がある。
……首に何かが巻き付いていた。それが私の足を止めていたのだ。
「なんだ、クソッ! ふざけやがって……!」
巻き付いていたのは植物のツタのようなものだ。私だけじゃない、セイジさんの手足にも巻き付いている。
ギリギリ動く首を振り向かせると、背後数メートルほどの場所にいる、人食い植物みたいなモンスターがツタを伸ばして絡めていた。
「アシストフォース、跳弾!」
セイジさんが、固定された手首で指から弾丸を撃つ。
壁に命中して弾んだ弾丸は、見事にその植物型モンスターに命中。
キシュウゥ、という悲鳴とともにそのモンスターは死に、私たちを足止めしていたツタも解けた。……だけど。
ガゴン、と重い音を立てて目の前の扉が閉まる。
漏れていた白い光がなくなり、廊下はただただ赤い光に満たされた。
出口だったはずのドアは完全に壁と一体化して消えてしまっていた。
振り返れば、ガシャガシャという金属音に、続々脱獄してくるモンスターの数々。
……時間、切れ?
……ゲームオーバー……?
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