第5節 5階層・強制スクロール①
EXITのプレートが張り付いた鉄の扉を開くと、視界に広がるのは赤色の廊下。
これまでは薄暗い蛍光灯ばかりだったダンジョンの中で、この階層は眩く、そして目に悪い赤色のライトで満たされていた。
「っ……」
2歩ほど歩くと、私は突然胸の奥に何かの感覚を得た。
歯車が組み変わったような、あるいはネジが締まったかのような不思議な感覚だ。
「どうかしたのか?」
「い、いや……なんでも」
セイジさんは私が突然胸を押さえたので気になったようだ。
私自身、今の感覚が何だったのかはわからない。とりあえず首を横に振り、辺りを見回す。
そこはただひたすらに長い廊下だ。今いる場所のはるか奥に白い光が見える。
廊下の左右には鉄格子で仕切られた部屋がいくつもある。その中には――
「グルァッ!!」
「ひあぁ!? 何なに!? 中にモンスターいるっ!」
鉄格子の様子を見ようとした私を中から吠える狼のようなモンスター。
幸い格子を抜けてきたりはしないみたいだけど、怖すぎるって。寿命が縮んだよ。
「……嫌な予感だな」
「え? 嫌な……って」
「とにかく進むぞ。急げ」
セイジさんは顔をしかめながら早歩きで一本道の廊下を進んでいく。
床は埃っぽく、所々にはヒビも入っている。壁はコンクリートでできていて、あちこちに矢印のマークのシールが貼り付けられている。
「なんか、奥に誘導してるみたいだけど……この廊下、長すぎない?」
「…………」
セイジさんはピリピリしていて喋らず、ただ前を進んでいっている。うう、なんか不安になるから喋ってくれないかな。
そうして、この階層に入ってから1分くらい経った頃だろうか。奥の光に近付いている気がしないが、そのとき――
ビィィィィ、ビィィィィ!! と、やかましい音で警報が鳴り響いた。
「わぁ!? 何なに!?」
「チッ、まずいな……走れ!」
促されるままに走り始める。その背後で、ガシャガシャと金属が揺れる音がした。
走りながら首だけ振り向く。床を走る爪の音。さっきの犬がこちらに走ってきていた!
「ええ!? どういうこと!?」
「アシストフォース、ミニガン!」
ダウンを翻し、素早く振り向くセイジさん。その指先から、地鳴りのような音が細かく鳴り響く。
大量の弾丸が私の横を通り抜け、獣の悲鳴が後ろから聞こえた。……あの弾の量からして明らかに挽き肉だろう。振り向かないようにしよう。
しかし、さらに続けざまに金属が揺れる音が背後から近付いてくる。恐らくこれは、あの格子が開いている音なんだろう。
つまりこの階層は、時間経過とともにあのモンスターたちが続々解放されていく階層、ということだ。追いつかれないように走るしかない!
「はっ、はぁっ、はぁっ……!」
「アシストフォース……チッ! 氷結弾!」
バキン、という音とともに後ろからすごい冷気を感じる。
思わず振り向くと、私たちのすぐ後ろに氷の壁ができて、道をすっかり塞いでいた。
「な、何でも撃てるじゃん……!」
「喋る余裕があるなら呼吸しろ! もっと走れ!」
そんなに急かさなくても、セイジさんだったらもう全部のモンスター殺せるんじゃないの!?
そう心の中で文句を言いながら前を向き、走る。奥に見える四角い光。――それに、異変が生じていた。
光が小さくなっている。狭まっている。この階層の出口が、閉じ始めてる!
「セ、セイジさん! セイジさん!」
「言わなくてもわかってる! だから走れ!」
氷の壁を激しく破壊しようとする音が響く。前は閉じて、後ろはモンスター……!
あぁもう、こんなのメチャクチャだよ!!
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