第7節 4階層・パイプの地下鉄②

「……うわっ、ねぇセイジさん! なんか来た!」

「あー? アシストフォース、溶解弾」


 ……それからも、トンネルには色々なモンスターが現れた。


 液状化したコンクリートみたいな質感のヘビ。


 人間の皮膚をキグルミにしたみたいなペラペラのなにか。


 空中に浮かぶ大きな口。


 そのいずれも彼にとっては脅威にならず、次々に撃ち出される弾丸で蹴散らされていく。


 それだけの敵を仕留めておきながら、彼は疲れた様子も見せない。


「……もしかしてセイジさんって、すごく強い人なの?」

「そうだ。今のところ、明確に俺より強かった人間は……1人か2人くらいしかいない」


 おお……と私は声を漏らしてしまう。人生で1度くらい言ってみたいセリフだ。


 その割には2階層で隠密行動を取ろうとしていたうえに、あの人を見捨てたのは何故なのだろう。


「お前、『じゃあ最初から全部撃って倒せよ』って思ったか?」

「えっ!? あ、いや……。……うん! 思った! そんなに強いならあの人だって……」


 図星を言い当てられ、誤魔化せずに肯定してしまう。


 一本道のトンネルを歩きながら、セイジさんは呆れたような目を私に向ける。


「しつこい奴だな。見つけたときにはアイツはもう手遅れだったんだよ。

 ……俺だって、助けられる奴だったら助けてたさ」

「あ……。ご、ごめんなさい……」


 俯きながら発されたその言葉に、私は自分の間違いに気付く。


 第一印象こそ悪かったが、彼は親切な人間だ。素性も知れない私を保護し、アレコレ質問攻めに答えてくれているところからもわかる。


 セイジさんだって後悔していたのだ。あの人を助けられなかったことを。それを私は……。


「……そう落ち込むなって、面倒な奴だな」

「う、うるさい……面倒とか言わないでよっ」


 セイジさんはカツカツと歩きながらため息を吐く。


「それにな、ダンジョンはそんなに単純じゃない。能力の消耗もあるし、俺が強けりゃ全部解決するわけじゃないんだよ」


 そのとき私は、彼の言葉になにか後悔のような色を感じた。


 強けりゃ全部解決するわけじゃない。……さっきの人と同じように、助けられなかった人は過去にもいたのだろうか。


「……なにか、過去にあっ――」

「着いたぞ。ドアだ」


 私の言葉を遮るようにして彼は教えた。


 壁を這う2本のパイプに挟まれるようにドアがある。古臭い銀色のドアノブ。ドアには「EXIT」の文字プレートが貼られていた。


「確かここが4階層で、ダンジョンは全部5階層なんだったよね。てことは、次が……最後?」

「そうだ。さっさと行くぞ」


 セイジさんはそれ以上の話題を掘り下げたくないと主張するように、ぶっきらぼうに扉を開いた。


 最後の階層。否応なくドキドキする。果たして何が出てくるのだろう……。

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