第20話:棚上げする者達




「お前は馬鹿か!」

 食堂で、あの女にまとわりついている幼馴染王太子を排除しようとしたら、逆に窮地に立つ事になった。

 あの後、学園内の空気はあの女の味方に変わり、俺は元婚約者に付き纏う最低男と言われるようになっていた。


 王太子と阿婆擦れ王女の噂は、俺が流したわけでは無いのに、気付いたら俺に責任を擦り付けられていた。

 なぜかそれが父上にばれて、今、怒鳴られている。



「あの女がいい気になって勘違いしてるのは、王太子が一緒にいるからだろ? だから、今まで通り俺が隣に居る為に……」

「お前が隣に居た事などあったか?」

 父上と一緒に部屋の中に居た兄さんが茶々を入れてきた。

 うるさい。部外者は黙ってろ。


「俺はいつもあの女を気遣って……」

「婚約者をあの女呼ばわりする奴が気使うのは、自分の事だろう?」

 俺の言葉を遮って、兄さんが言う。完全に俺を見下している。

 なんで俺がそんな目で見られなきゃ、そんなふうに言われなきゃ、いけないんだ?



「とにかく、お前はもう学園に行く必要は無い。貴族では無いからな」

 は?

「当たり前だろう。何を驚いた顔をしている。不敬罪で処刑されなかっただけ幸せだと思え」

「な、なんで兄さんがそんなに偉そうにしてるんだよ!」

 さっきから父上じゃなく、兄さんが仕切ってて、おかしいだろう?


「当たり前だ。私が伯爵家当主だからな」

 はぁ? なんで伯爵家当主になった兄さんが、侯爵家当主の父上より偉そうなんだよ。馬鹿なのか?

「シルニオ侯爵家は、もう……無い」

 兄さんが話し始めてから黙っていた父上が、口を開く。

「お前があんな馬鹿な事をしなければ……」

 極小さな声だったが、とても小さなその呟きは、俺の耳にも届いた。




 その後兄さんから、書類を見せられながら淡々と説明をされた。

 まず、侯爵じゃなくなった事。当然領地も無い。それに伴い、父上も当主じゃなくなった。

 あの女の家への慰謝料が高額な上に、王家にも罰金を払わなければいけなくなった事。王太子を貶める噂を流したせいだ。

 隣国の王家から、阿婆擦れ王女を押し付けられた事。


「お前の妻だ。今、妊娠5ヶ月だそうだ」

「俺は平民になるんだろ? そんな隣国の王女なんて」

「お前の妻も王籍抹消された平民だ。気にするな」

「何だよそれ!」

「こちらの国に追放では外聞が悪いから、お前と結婚する為にこちらに来る事にしたのだ」


 なんだよ、それ。

「安心しろ。生まれた子供は性別に関係無くあちらの王家が引き取る。それだけは確約されている」

 なんだよ、それ!!

 俺になんの得が有るんだよ!

 いや、そうだ。一つだけ得が有るじゃないか。


「元王女なら、持参金は山程持って来るんだよな?」

 それがあれば、平民になっても贅沢に暮らせるじゃないか。

 貴族の義務が無くなり、それこそ一生遊んで暮らせるぞ!

「王女と情夫がつつましく一生暮らせる程度だ」

「じょう、ふ……?」

「腹の子の父親候補達だな」

「たち?」

 最後の俺の質問には答えず、兄さんは鼻で笑って部屋を出て行った。




 平民なった俺は、兄さんの伯爵領で農民になった。土地を持たない雇われ農夫だ。

 そして元王女は、本当に噂にたがわぬ阿婆擦れだった。

 五人もの情夫を連れて嫁いで来たのだ。


 持参金という名目の金は、毎月、平民として少し豪華な食事が出来るギリギリの額が振り込まれる。

 商会を持っている家の子息だった男が、その辺は取り仕切っている。

 それは別に良い。

 俺はこいつらとは別に、小さな家を借りて住んでいたからだ。


 同じ領地内ではあったが、あっちはそれなりの家を隣国の王家から買い与えられていた。

 一応、形だけとはいえ夫婦なので、歩いて行ける距離に家を借りた。

 一緒に住んでも良いと言われたが、断ったら驚かれた。


「このわたくしと一緒に住む栄光をふいにするとは」

 本気でそう思っているらしい阿婆擦れは、次にとんでもない事を言い出した。

「まぁ、良いでしょう。担当日には、きちんとお部屋に来なさいね」

 はぁ?



「なんだ、その担当日とは」

 意味が解らず、素直に質問した。

「日替わりで姫様の相手をする日ですね」

 ムキムキ筋肉が答える。

「今までは曜日毎で、学校がお休みの日は全員で朝から晩まで、だったのですが」

 妙に顔の綺麗な優男が追加で説明する。

 全員で、って乱交だろう?


 それから神経質眼鏡が馬鹿な提案をしてきたり、生活費の計算をしていた可愛い系の男が夜の具体的な話をしたり、魔法が使えるという男が変な物体を出したりした。


 そんな五人を見て、阿婆擦れが満足そうに笑う。

 最悪だ。



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