第14話:悪意ある噂
教会でいつものように怪我をした方達の治癒をしていた時、その噂話が聞こえてきました。
話していたのは商人の護衛をしていた方達で、隣の国から来たようでした。
「なんかあの奔放姫がとうとう結婚するんだってな」
「はぁ? よくもあんな
「それがこの国の王子様なんだってよ」
確かにレベッカ様が断れば、確かに婚約者候補は王女しか残りません。
しかし彼女は身持ちが悪く、王家に嫁ぐには適さないはずです。
「でもこの国の偉い貴族がそう言ってたってよ」
「こらこら、あまり確証の無い事を大きな声で言うのはよしなさい」
話の方向が怪しくなった時、商人が止めに入り、そこで話が終わりました。
続きを聞きたかったのですが、癒しの巫女としての活動中です。しかも彼等は私ではなく、護りの巫女へ行商の無事を祈って貰う為に来た人達です。
偉い貴族が誰なのか。せめて何か少しでも情報が欲しかったのですが……無理でしょう。
それから数日。
あの隣国の商人と護衛の噂話と同じ内容が、学園内でも囁かされるようになりました。
さすがに本人の前で堂々と言う人はいませんが、ヒソヒソコソコソ、鬱陶しいです。
殿下を見るのは、同情と軽蔑が半々。
レベッカ様を見るのは、面白がっているのと、ざまぁみろという
「嘘でもこれだけ
いつものように食堂で三人で食事をした後、レベッカ様が声をひそめて話し始めました。
「これだけ早く広まっているのだから、誰かが意図的に広めているのだろうね」
殿下が応えます。
「このような嘘で得をする人……?」
それは勿論、嫁いでくる王女本人……でしたら「阿婆擦れ」などと不名誉な噂にはしないですよね。
不名誉な話自体を否定しておいて、嫁ぐ事にするでしょう。
私ならば、そうします。
結局その日は何も結論が出ず、相手の意図が判らないので対策も何も思い付きませんでした。
たかが噂に、王室が「嘘ですよ」と宣言するのも変な話ですからね。
そして、私は知るのです。
悪意のある噂は変化するのだと。
「例の阿婆擦れ王女、実は王太子の子供を身ごもってるらしい」
「え? 私が聞いた話では、殿下にも愛人がいるから、お互いに好き勝手する契約を結んだって」
またあの商人の護衛達です。
声が大きいので、普通に話しているのかもしれませんが、教会中に話の内容が丸聞こえです。
「この国の偉い貴族が、受け入れ準備が始まっていると」
護衛の男がそこまで言った時、ドンッと大きな音が響きます。
「そこの人達、帰りなさい」
凛とした声がしました。
この声はレベッカ様です。ベールで顔を隠していますが、間違いありません。
今日は神殿ではなく、こちらの教会での祈りだったようです。
レベッカ様の声に驚いたのか、護りの巫女が部屋から出て来ました。こちらは、顔を隠していません。
私は皆から見える所での作業になりますが、護りの巫女は奥の小部屋に1組ずつ招き入れる方式で、本来ならば
「教会内で大きな声で嘘を撒き散らすなど、神罰が下ります。私の護りなど無意味ですので帰りなさい!」
今度は護りの巫女が、ポカンと間抜け面……驚いた顔をしている商人に、退室を命令しました。
呼びに来たのではなく、拒否しに来たようですね。
その後、商人は護衛は金で雇っただけだとか、自分は無関係だとか言っていましたが、雇用契約が結ばれているのであれば、その言い訳は通用しません。
護衛達は「単なる噂話」「嘘を吐いたわけでは無い」と、こちらも言い訳していましたが、教会の人に追い出されていました。
聖女が拒否したのだから、居ても無駄ですからね。
それから1週間、商人と護衛は毎日教会へ通い続け、商人は本当に関係無かったようなので別の護衛を雇う条件付きで護りの祈りを捧げたそうです。
護衛達は護りが貰えないので雇う者は無く、自国へ帰ろうにもやはり護りが無いと不安なのか、まだ謝罪
「許さないよ」
いつもの教会での活動後、護りの巫女が言いました。
「同じ聖女の頼みだしね」
護りの巫女が微笑みます。レベッカ様が「確かに殿下とは形だけの婚約者です。でも同志だし、お友達なのです」と言っていたそうです。
やはりレベッカ様は素敵です。
勿論、護りの巫女である彼女も。
そっと抱きついたら「なに?」と優しく抱きしめ返してくれました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます