第15話:策士策に溺れる

すみません。前話でレベッカを護りの巫女として書いてました。

話の流れは変わりませんが、若干書き直しました。

───────────────




 今日は午後からの登園なので、いつものようにレベッカ様と食堂へ向かいました。

 殿下はまだ居ませんが、もうすぐ来るだろうと先に食堂へ入ります。

 殿下が来るまで食事は待つ事にして、先に甘い物を頼みました。

 疲れた時には、甘い物です。


 まだ授業が終わってすぐだった為に、私達の周りの席には誰も座っておりません。

 だから教会で悪意ある噂をしていた人達と、その噂自体の検証をする事にしました。


 噂の出処は、隣国の商人の護衛。

 たかが噂とあなどり、安請け合いしたのでしょう。

 それに普段は隣国で活動しているようですし、ほとぼりが冷めるまでこちらに来なければ良いと思っていたようです。

 帰れなくなっているようですけどね!


「依頼主は、やはり隣国の王女殿下かしら? それにしては自分を下げすぎよね」

 レベッカ様が考える為か腕を組んで目を閉じます。

 腕に載ったたわわな果実に釘付けになってしまいました。

 羨ましい……。


 それからすぐに、あの噂の依頼主が判明しました。

 意外というか、納得というか。




「メルデ、ヴィ!」

 人の名前くらい、まともに呼んでください。いえ、その前に婚約破棄したのだから呼ばないでください。

 元婚約者が食堂に駆け込んで来ました。

 食べ物のある所で走るなど、貴族ならば子供でもしませんのに。


 そしてキョロキョロと周りを見回した後、声高に言ったのです。

「あの男は婚約者の王女を妊娠させたそうじゃないか! そんな男と一緒に居たら駄目だ!」

 ニヤリと笑う顔は、正直言って醜悪です。

「やはりメル、ヴィの隣には俺が必要だと思うんだ! きさ、君一筋の俺が!」


 まず第1に、私の名前もまともに呼べない人などお断りです。

 第2に、「貴様」と言おうとしましたよね? どれだけ上から目線なのですか。



 それにしても、その話はどこから聞いたのでしょうね。

 前回の噂と違い、まだ市井には広がっていません。

 なぜなら、広がる前に護りの巫女が「嘘を広めたら神罰が下る」と脅しましたもの。

 発信元の護衛達は当然ながら、その場に居た人達も神罰が怖いのか噂は広がりませんでした。


「まぁ! 婚約者で公爵家の私ですら知らない情報を、どこで知りましたの?」

 レベッカ様が大袈裟に驚いてみせます。

「はっ! 市井ではこの噂で持ち切りだというのに、公爵家も大した事無いな」

 そうですね。予定では今頃、市井はその噂で持ち切りだった事でしょう。


 前回成功したから、きちんと確認しなかったのでしょうか。

 そういう詰めの甘いところがとても貴方らしいですけどね。



 私は食堂内に居る給仕の方を呼び、市井の噂に詳しい市民の方が働いていないか質問しました。

「それなら野菜のしたごしらえをするマーサですね」

 そのマーサさんを呼んで頂くと、程なく少しふくよかな女性と同じ位の年代の細身の女性が来ました。


 細身の女性が件のマーサさん、もう一人は同僚のリイズさん。一人では不安なので、二人で来たとの事。

 その方が話に信憑性が出ますし、大歓迎です。



「事実確認をしたいだけなので、正直に答えてくださいね。無論、不敬罪にはなりませんのでご安心を」

 私の言葉に、二人はコクリと頷きます。

「今、街では王太子殿下の婚約の話はどのような噂になっていますか?」

 質問された二人は顔を見合せた後、おずおずと話し始めます。


「り、隣国の王女、様、が嫁いでくる……らしいと」

 そうですね、知ってます。

 私とレベッカ様が頷いたので、大丈夫だと解ったのか二人は嬉々として続けます。

「なんかその王女様がお股の緩い人だとか」

 お股……市井ではそう言うのですね。


「連れて来る騎士は全員愛人だとか」

「アタシは向こうの国の貴族は全員お手付きだから、こちらに開拓しに来るって聞いたよ」

「何でよりによってそんなアバズレを王太子様は嫁に迎えんのかね」

「よっぽど金を積まれたのかねぇ」


 二人でいつもの調子で話していたのでしょう。ハッと口元に手を当ててから、「こんな感じの噂です」と慌てて頭を下げた。



「その王女が王太子殿下の子供を身ごもっている、という噂は有りますか?」

 先程元婚約者が言っていた噂とやらを聞いてみます。

 二人はまた顔を見合わせてから、首を傾げました。


「いえ、聞いた事無いですね」

「アタシも、今、初めて聞きました」

 本当に初耳なのは、二人の表情で判ります。

 話をしてくれた二人には僅かながらお礼を渡し、そして噂は全て嘘だから他の人にも否定しておいて欲しい、とお願いをして仕事に戻ってもらいました。


「それで、どこで聞いたお話でしたかしら?」

 顔面蒼白で立ち尽くしている元婚約者へ、私とレベッカ様は笑顔を向けました。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る