第13話:もっと面倒な事




 翌日、例の教師が辞めさせられたと殿下に聞きました。

 依怙えこ贔屓ひいきが酷く、授業の間違いも多く、元々問題のあった教師だったようです。

 それでも侯爵であるサンニッカ家の親戚であり、サンニッカ家のアルマスは私の元婚約者です。

 私があまり登園出来ていなかったのをいい事に、勝手にうちのラウタサロ家まで後ろ盾にしていたのでしょう。


 侯爵家2家が自分の後ろには居るんだぞ、とえばり散らしていたのに、婚約が破棄になり、しかも自分の親戚であるアルマス有責であれば、今までのようにはいかないだろう。

 その為に、婚約破棄の話が広がる前に私を攻撃して有利に立つつもりだったのでしょうか? 勘違いもはなはだしい。



 そして、勘違い男がもう一人。

「俺に振られた腹いせに、親戚だという 理由で教師をクビにしたって本当か!?」

 元婚約者が教室へ走り込んで来て、叫びました。

「嘘ですね」

「嘘だな」

 私と殿下が答えました。


「そもそも振られていないですし」

「理由は教師自身の問題だしな」

 私と殿下で、元婚約者の発言を訂正します。

「何一つ合っていない、そのような大嘘をどなたが言っていたのでしょう」

 私の問いに、元婚約者はフイと顔をそむけました。


 解雇されたあの教師に泣きつかれ、自分に都合の良いように、また脳内変換したのでしょう。

 婚約破棄した後の方が、元婚約者との接触が多いのは気のせいでは無いですね。

 私が学園に前よりも通えるようになったのもあるので、本当に色々と時期が悪かったのでしょうね。




 そして、この日を境に元婚約者からの付き纏いが始まりました。

 朝から通園出来た日は、馬車を降りると既に出入口で待っています。

 挨拶をしてきて、「鞄持とうか?」などと教室まで付いて来るのです。

 当然私は挨拶を返す以外は無視します。

 殿下やレベッカ様情報ですが、私が朝から行かない日でも、予鈴までは待っているそうです。


 お昼は食堂入り口で待っています。

 一緒に食べようと誘われますが、断ると無理強いはせずに近くの席に座ります。

 私が午後から行く日は、食堂がある程度空いてから、入り口が見える席で食事をしているそうです。


 授業が終わると、教室へ来ます。

 婚約者時代には一度も無かったのに、カフェへ行こうとか、似合う髪飾りを見つけたから買いに行こうとか、誘って来ます。

 さすがに私が居ない日は、教室内を見回して、近くの生徒へ声を掛け確認をし、帰って行くそうです。



 いっその事、犯罪に近い程の付き纏いならば対処も出来るのですが、私が鬱陶しいと感じるだけでは何も出来ません。

 口頭で「止めてください」と注意する程度がせいぜいです。

 食堂で私に掴み掛かって来たくらい、強引な行動に出てくれれば一発で終わりますのに。


 それから1番困った事が、周りの生徒達が彼に同情的に変化した事です。

 今まで交流が無かったのは、私が学園に通えなかったからだと思われたようです。

 元婚約者の友人達は彼の非道を知っていますが、当然それを周りに話す事はありません。

 まるで私が我儘で彼を振り回しているように言われ始めてしまいました。




「私と行動を共にしているから、メルヴィ様まで我儘だと思われてしまって……ごめんなさい」

 ある時、食堂で食事の後に、レベッカ様に謝られてしまいました。

態々わざわざ人目のある所で待っていて、拒否されるとすぐに引き下がる……そして、影から見つめる。どれも女性が好きそうな、物語のような状況だね」

 殿下が呆れたように呟きます。


 言われてみれば、あの馬鹿みたいな婚約破棄宣言が皆の記憶から薄れてきた今ならば、彼の行動は物語の健気な男主人公のようです。

 しかも醜聞なので、慰謝料で揉めている事は公にされず、皆は知りません。


「何があっても、私はシルニオ侯爵令息と再び婚約を結ぶつもりは一切有りません」

 思わず声に力が入ってしまいました。

 後ろでガタリと音がして、去って行く足音が聞こえます。

「悲劇の主人公が悲しげな顔をした後、席を立ったよ」

 殿下が説明してくださいました。


 周りは「可哀想」とか「もう少し機会を差し上げても」とか言っていますが、本気でそう思っているのでしょうか?

 自分が同じ立場でも、本当にそう思うのでしょうか?


 どれだけ健気に見えても、中身は自分勝手な暴君で、断っても断っても纏わり付いてくるのですよ?

 こちらの都合を考えずに。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る