第12話:面倒な事




 教室へ入り、私と殿下は分かれ、自席へと着きました。

 先程の殿下の笑顔を思い出します。

 あの時の「味方が居て良かった」というのは、やはりレベッカ様への言葉だった気がします。

 なぜなら、今の私に敵はおりません。

 レベッカ様は、王太子殿下の婚約者な上に悪評が広がっている。敵だらけでしょう。


 そうなると、あの優しい笑顔は、やはりレベッカ様へ向けたものなのでしょう。



 私もレベッカ様のような男性を惹き付ける容姿だったら……と考え、など無駄な事だと首を振ります。

 レベッカ様は、豊穣の巫女です。

 豊穣の巫女とはその名の通り、国の豊穣の為に神殿で神に祈ります。

 あまりにも土地が痩せてしまったり、災害で荒れたりしたら、直接出向くそうですが、ほとんど無いそうです。

 そして豊穣を表す容姿をしています。


 対して私は、癒しの巫女です。

 私の仕事は、普段は教会での治癒作業です。どこかで大勢の怪我人や病人が出た場合や、魔物が大量発生した場合の討伐隊に同行します。

 なので、他の巫女よりも体力が有る気がします。もしや、動きやすいように小柄なのでしょうか?


 今は他に神託の巫女と、護りの巫女がおります。

 これらを纏めて聖女と呼ぶのです。

 お二人は私達とは年齢が離れております。護りの巫女は上に、神託の巫女は下に。

 そして本当はもう一人、浄化の巫女が居るはずなのですが、なぜか私が浄化の力も持っているので今は居ません。


 だから魔法判定のあの日、周りがあれほど大騒ぎしたのですね。


 浄化の巫女と治癒の巫女の活動は似ています。活動範囲はほぼ同じです。

 なので問題は無いのですが……二人分働いているようなものなので、私の拘束時間が長い気がします。



 遠征先では、兵士を癒し、土地を浄化します。

 場合により、護りの巫女が結界強化に同行する事もあります。

 30歳近い彼女は、私を娘のようだと可愛がってくださいます。

 姉では? と言うと、豪快に笑って「良い子だ」と頭を撫でてくれます。


 彼女はベールで顔を隠さず、人々の前に出ます。

 一生を神に捧げているからです。

 そのように決めた彼女を害すれば、天罰が下るので、無体を働く人は居ないそうです。

「天罰の前に、あの世行きだがな!」

 そう言った彼女は、手の中の短刀をもてあそんでいました。




「ラウタサロ嬢、それほど私の授業はつまらないかね」

 考え事をしている間に、授業が始まっていたようです。

 机の上に教科書は載っていますが、開けているページが授業内容とは違う所です。授業前に予習しようと先のページを開けていたのです。

 教師が横に立っているので、言い訳は出来ませんね。


 それにしても教師の方々は、私が既に卒業資格を持っている事をご存知のはずです。寝ていたわけでもなく、傍から見れば真面目に授業を聞いているように見えたはずなのに変な絡み方を……そこまで考えて、納得しました。

 たしかこの方は、元婚約者の親戚です。

 子爵家三男だか四男だったので、教師になったのです。


 入学直後に、親戚になるのだから、これからは色々融通してくれ、と遠回しに言われました。勿論、断りましたけど。

 今回のこれは、元婚約者の代わりに制裁しているつもりなのでしょうか?

 それならば、こちらも手加減する必要は有りませんよね?



「申し訳ありません。授業内容がうちの家庭教師より低くて……」

 うふふ、と笑って見せると、顔を真っ赤にしてます。

 授業内容が家庭教師よりも低いのは本当です。

 公侯爵家の家庭教師になれるような人材は、殆どが学園の教師より高級取りで優秀なのです。


「ほら、あそこ」

 教室の前に掲げてある魔法板を指差します。魔法板とは、魔法筆で文字の書ける大きな白い板で、布で簡単に消せるので教師が授業の要点を書くのに使うのです。

 私は、そこに書いてある1文を指差したのです。

「間違えてますよ。大王じゃなくて、皇帝です」

 世界歴史の授業なのですが、間違えて書いているのです。


 このクラスは高位貴族しかおらず、歴史の授業は家庭教師に教えて貰った事の確認なので、皆様間違いには気付いていたようです。

 授業後に誰かがこっそりと教えるはずでした。いつもの事です。

 そう、いつもの。


「あなた、こういう間違いが多過ぎますよね。今までの件も含め、学園には抗議しておきますね」

 これからの学園生活を快適にする為に、私は情け容赦をしない事にしました。

 教師という立場を盾に呼び出され、元婚約者と二人きりにさせられたりしたら困りますし。




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魔法板は、ホワイトボードをイメージしていただければ。

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