第11話:温かな交流
「王太子殿下、レベッカ様、皆様の通行の邪魔になりますので行きましょう」
私は、元婚約者の視線を無視してお二人を食堂内へと誘いました。
レベッカ様は元々一緒に居たのですが、殿下も誘います。
お二人は仲が悪いとかでは無く、ただお互いに関心が無いだけですので、問題は有りません。
いえ、恋愛が絡まなければ、連絡も取り合っているらしいです。完全な無関心とは違うのですよね。
教会で
本当に噂とはあてになりませんよね。
レベッカ様は我儘でも高慢でもなく、聖女として国を支えている方なのです。
そして、殿下との仲も噂ほど悪くありません。
私も病弱では無いです。どちらかと言うと活発な方で、未だに枝ぶりの良い木を見ると、登りたくなります。
やりませんけどね。
自分の屋敷の庭でしか。
「大丈夫だった?」
席に着いた途端に、殿下が私を気遣う言葉を掛けてくださいました。
婚約破棄の立ち会いをしてくださったので、元婚約の思い込みの激しさを知っているからでしょう。
「何? あの気持ち悪い男。本当に婚約者だったの?」
レベッカ様が害虫を見付けた時のような表情をされています。
「残念ながら、アルマス・サンニッカ・シルニオ侯爵令息、私の元婚約者です」
私が溜め息と共に吐き出すと、レベッカ様は同情の視線をこちらへ向けました。
殿下は無表情になります。
「まだ慰謝料の件で揉めておりまして、婚約破棄は成立しているのに縁が切れていないのです」
気分的には慰謝料など要らないので、即縁切りを! と私も家族も思っているのですが……そこは貴族です。心情よりも体面が重要な時もあるのです。
「メルヴィ……ラウタサロ嬢が私の婚約者候補から降りたのは、奴が原因だからな」
そうなのです。
ここで慰謝料を請求しないと、王太子の婚約者の座などどうでも良かった……と、王家への侮辱にもなるのです。
はあぁぁぁ。
思わず深い溜め息が出ました。
私だけではありません。レベッカ様も殿下も同じように息を吐き出しています。
「そこで降りていなければ、今頃私は自由だったわ」
レベッカ様です。
「私も候補などと言わず、婚約者が居ただろう」
殿下? それは、私と婚約していたという事ですか?
思わず殿下の顔を見つめてしまいました。
視線を上げた殿下が、私の視線に気付きこちらを向きます。
フフッと悪戯が成功したかのような笑顔です。
もう。私を
その後は話を変え、最近レベッカ様が猫を飼い始めた話や、殿下が私達に話しても問題の無い国内の話をしてくださったりして、
私は教会や遠征での活動の事は話せませんし、家で気晴らしに木登りした話も出来ませんから、聞き役に徹していました。
途中でレベッカ様が恋人の聖騎士様の事を褒めて、
通常聖騎士様との交流など無く、遠目で見掛ける程度ですので当然ですね。
私と殿下は、恋人だと知ってますが、敢えて何も言いませんでした。
レベッカ様が猫と言っていたのが実は虎では? と思ったのですが、なにも言いませんでした。
とても懐いているようですし、もしかしたら聖騎士様が護衛として贈ったのかもしれませんね。
食堂を出てからは1学年上のレベッカ様とは分かれ、殿下と二人で2年生の教室のある方向へ向かいました。
「ヘルレヴィ令嬢と仲が良いのだな」
殿下に問われ、一瞬誰の事か判りませんでした。
レベッカ様の事でした。
ピエティカイネン公爵令嬢と爵位では呼ばないところから、やはりそれなりに仲良しのようです。
「はい。あまり学園に通えない私に、色々と教えてくださいます」
私よりも学園に通う機会の多いレベッカ様は、私を気遣い色々と教えてくださるのです。
「そうか。味方が居て良かった」
殿下がフワリと優しく笑いました。
それは、私へ向けたものなのか、レベッカ様へ向けたものなのか、とても気になったのですが、聞く事は出来ませんでした。
約10年。私は別の人と婚約していたので、殿下と個人的に交流する事が有りませんでした。
不貞を疑われる行動は、私よりも殿下の醜聞になるからです。
今更ながら、元婚約者の言動の影響を実感しました。
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