第8話:お話し合い……決着
大きく息を吐き出した私の事を、婚約者だけでなく皆が注目してます。
さすがに多少は愛情が有るのだと、皆誤解していたようです。
私の両親さえも。
なぜなら、私は努力をしていましたから。
彼との婚姻は、貴族としての義務だと思っておりました。
結婚生活をより良くしようと、関係改善に努めました。
激しく燃える恋愛感情ではなくても、お互いを親愛し、認めあえる夫婦になろうと思っていました。
聖女としての教育と活動の為に、普通の婚約者のような交流が出来なかったので、婚約者には我慢をさせているだろうと、私も大分我慢をしてきました。
しかし、堪忍袋の緒は、限度を過ぎれば切れるのです。
突然、思い出したあの事。
婚約者に「俺の子を産めるのか?」と聞かれた時に、私は無理かもしれないと答えました。
その時の彼の反応は、「貴族として役立たずだな」と
あまりにも残酷な態度に、私自身、記憶を封印していたようです。
まだ閨事の事も知らなかった子供の頃の話ですから、当然ですね。
「私は婚約が決まる前の幼い頃、両親との時間が減るのを悲しんでいました。教会に定期的に通わなければいけない事が決まっていたからです」
聖女と判明してすぐの頃だったでしょうか。
「そこでシルニオ侯爵令息に、殿下と結婚したら家族と会えなくなる、と言われたのです」
「そんな事ない!」
私の言葉を聞いて、なぜか殿下が立ち上がり、叫びました。
「はい。今なら判っておりますが、当時の私はそれを信じて大泣きしたのです」
それはもう、興奮して息も上手く吸えないほどの大泣きでした。
「その為、貴方の言葉など、聞こえていなかったのです」
婚約者の顔を見て、しっかりと視線を合わせます。
「貴方との結婚を拒否しなかったのではなく、ただ単に聞こえていなかっただけです」
長年言えなかった秘密を、やっと私は話す事が出来ました。
「私との婚約を拒否した理由が、アイツの嘘だったなんて……」
殿下が音を立てて椅子へと座りました。
完璧な礼儀作法を身に付けている殿下にしては、とても珍しい行動です。
「う、嘘を言うな!」
こちらは予想通りの反応ですね、婚約者様。
「信じようと、信じまいと、貴方の自由です。もう婚約は破棄されるのですから」
そう。もう婚約破棄は決定なので、今更婚約理由などどうでも良いのです。
ただ、私が婚約者を好きだという誤解だけは否定したかったのです。
「子供の頃、茶会で必ず声を掛けてきてたじゃないか。俺が近付くなって言っても」
「婚約者の義務ですから」
「俺が連絡しなくても、俺が参加する茶会には出て来ただろ」
「貴族として必要な事でしたから」
「俺の子供が産めないかもって、悲しんでただろ!?」
「貴方の子供など産みたくない、とは思ってました」
何を驚いた顔をしているのですか。
私の方こそ驚きましたわ。子供が産めないかもと悲しんでいる、と思っていた相手に向かって「役立たず」と言っていたのですか。
「婚約を継続する理由が無くなったな、シルニオ侯爵」
陛下の静かな声が室内に響きます。
その台詞の意味が解らずに私達ラウタサロ家の面々は、陛下へと顔を向けます。
「シルニオ侯爵側は、痴話喧嘩の一環での婚約破棄発言を、タピオラ侯爵が大騒ぎしただけで、令嬢は息子を愛しているから継続を望んでいるはずだ、と訴えていたのだよ」
陛下が説明してくれました。
驚愕です。婚約者は、どれだけ自分に都合の良い説明をしたのでしょうか。
食堂での一方的な宣言を、痴話喧嘩ですか。
「単なる痴話喧嘩になるはずだったんだ」
ボソリと呟いた婚約者の声は、私だけでなく私の両親、そして彼の両親にもしっかりと聞こえたようです。
「馬鹿なのか?」
そう囁き合ったのは、うちの両親です。
「何だそれは……」
目を大きく開け、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして呟いたのは、シルニオ侯爵です。
夫人は「メルちゃん?」と私に縋るような視線を向けてきましたが、無言を返しました。それが拒絶であると理解したようで、すぐに俯いていました。
その後、婚約を破棄する書類に双方署名をして、婚約破棄は成立しました。
当然、公の場で宣言した相手側の有責です。
元婚約者の中の彼を愛している私は、あの場で泣いて縋って「婚約破棄なんて嫌!」と、彼への愛を叫ぶはずだったようです。
そして元婚約者は、滅多に人前に出ない自分に従順な婚約者との関係を、周りに自慢したかったのだとか。
意味が解りません。
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今更ですが、名前がいつもと違う表記になっております。
主人公:メルヴィ(名)・ラウタサロ(家名)・タピオラ(爵位)
元婚約者:アルマス(名)・サンニッカ(家名)・シルニオ(爵位)
場面に合わせ、爵位で呼んだり、家名で呼んだりしてます。
なれないので、私も間違えて書いていて、こっそり直してたりします(笑)
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