第7話:お話し合い……泥沼
「まぁ! 私の娘のどこに謝る要素があるのでしょう?」
ヒリつく位の、凍りつく寸前のような空気の中、お母様が口を開きました。
お父様だけでなく、猊下も小さく頷いています。
「婚約者としての交流を
意気揚々と発言した婚約者は、周りの冷たい視線に段々と声が小さくなっていきました。
「きちんと手紙を送っておりました」
返事は来ませんでしたけどね。
「しかし! 俺の誘いは全て断ってきただろうが!」
まぁ、聖女の活動と被れば、どちらを優先するかは、考えるまでもありません。
それを公には出来ませんので、教会へ行くのだと断りましたが。
「教会へ行く日は変えられませんので」
私は常に教会に行く、とだけ言っていたのですが、幼い頃の彼が治療だと誤解したので、敢えて訂正はしませんでした。
聖女である事は説明出来ないので、都合が良かったのもあり、教会側からもそのままにするように、との指示があったからです。
私が本当に治療の為に教会へ通っていたのならば、予約変更は命に関わる危険のある行為です。
今日の予約を取り消し、明日に……とはなりません。何ヶ月も先まで空きが無い事もあるのです。
長期治療は、何ヶ月も先まで定期的に受けます。それが何人も、いえ、何十人もいるのです。
その為、次の空きより自分の次の予約の方が早い、などという事もざらなのです。
なので、私は次の婚約者の言葉に、我が耳を疑いました。
「そんなものより、婚約者を優先するのが当然だろう!」
私だけでなく、皆が固まりました。
彼の両親だけが「そのとおりだ」と呟いて頷いています。
「私に、死ねと?」
思わず問い掛けてしまいました。
本当は治療を受けていたわけではなく、治療を施していた側です。
ですが彼はそれを知りません。
それなのに、治療よりも自分を優先しろと、そう言うのです。
「そうは言っていないだろうが、馬鹿か。ただ、侯爵家の人間を婿に迎えるのだから、優先して当然だと言っているだけだ。しかもお前が懇願した婚約なのだからな」
いつの間にか婚約の経緯が、私が懇願までして成立した事になってます。
彼の両親は、そうでは無い事を知って……え? なぜ、したり顔で頷いているのでしょうか。
「私は一言も貴方と結婚したいとは言っておりません。幼い頃に、家を出たくないと泣いた事が元で、この婚約は成ったはずです」
私は彼の両親、シルニオ侯爵を見ながら訂正します。
侍女の説明を聞いて、詳しい経緯は知っているはずです。
殿下との結婚は拒否したけれど、彼との結婚は拒否しなかった……ただそれだけの理由で結ばれた婚約です。
彼との結婚を拒否しなかったのではなく、「俺と結婚すれば、俺がお前の家に住んでやる」と言った彼の言葉を聞いていなかっただけなのですけれどね。
幼かったとはいえ、なぜ説明を諦めてしまったのか……本当に、悔やまれます。
「俺が好きだから、拒否しなかったのだろうが」
フンと鼻で笑った婚約者が、得意顔で言います。
もう婚約は破棄されるので、我慢する必要は有りませんよね? 関係が悪くなるのを危惧して言いませんでしたが、真実を話しても良いですよね?
「貴族として、家同士の契約である婚姻の為に黙っておりましたが」
大きく息を吸い込みます。
私は、努力しました。貴方との関係を改善しようと。
子供のお茶会に参加出来ていた頃は、一緒に行こうと誘いました。断られましたけど。
その後、理不尽に怒った貴方に、理由を説明する手紙を書き、関係改善を求めました。貴方は更に私を罵倒しただけでしたけど。
会えない分、手紙を書きました。
一度も返事は来ませんでしたけど。
私の事を病弱だと誤解しているのに、一度も見舞いに来た事も無いですし、花が届いた事すら有りません。
心配して教会に着いて来た事もありません。
それどころか、いきなり「俺の子を産めるのか?」と聞いてくる配慮の無さです。
私が本当に病弱で、悩んでいたらどうするつもりだったのでしょう?
現に私が「無理かもしれません」と答えた時の貴方の反応は、覚えていますか?
「私は、貴方の事好きだった事など、一度も、欠片も、微塵も有りません」
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