第7話 SS6 撲滅悪質ホストクラブ

 ホストに貢ぐ女性が高額な売掛け金を抱え、風俗に売られたとか、タチンボをしているというニュースが出て久しくなった。政府は売掛けを制限しようという制度を作って規制しようとしたが、多くのホストクラブはそれに従ったものの、中には未だに売掛けをしているホストクラブがあるという。その悪質ホストクラブを撲滅するようにSSJから指令がやってきた。

 雄一は、あまり乗り気ではない。もともとホストに熱を上げる女性がおかしいという思いがある。正直言って、雄一は女っ気がない。かつては好きな女性がいたのだが、

「私、やさしい人が好きなの」

 と言って、離れていってしまってからは女性に近づくのを避けている。何を話したらいいかわからないし、女性が喜ぶことが何なのかをよくわからないのだ。マッチョでストイックな自分を好きになってくれる人はそうそういないと思っている。

 でも、任務となればやらないわけにはいかない。そこで、まずタチンボをしている女の子に声をかけ、近くのホテルに入った。女の子は服を脱ごうとしたが、

「今日は事情を聞きたいだけだ。お金は払うよ」

 と言って、所定の金額に1万円をプラスして渡した。

「事情って?」

「キミがどうしてこういうことをしているかっていう事情」

「あなたって、警察?」

「いやちがう?」

「じゃ、保健省かどこかの役人?」

「でもない」

「じゃ、なんのために情報を聞きたいの?」

「端的に言うと、悪質な組織をぶっつぶしたいということかな」

「ホストクラブをやっつけてくれるの?」

「やはりホストクラブがらみか?」

「ホストクラブをつぶしてくれるなら、話をしてもいいわ。でもケンちゃんは助けてあげて、ケンちゃんもホストクラブからお金をとってくるように言われているだけだから」

(これだから女の子はタチンボをするぐらい落ちてしまうんだ。そのケンちゃんとの仲を断ち切らないことには救われないのに)

 と思いながら、情報を得るためには仕方ない。

 女の子は美加と名乗った。本名かどうかは定かではない。きっと違うだろう。

「友達と二人で歩いていたら、ケンちゃんに声をかけられたの。おもしろいところあるよ。って言われてついていったら、ホストクラブだったの。すぐに帰ろうとしたら、1時間2000円でいいよ。って言われたので入っちゃった。ケンちゃんかわいい顔をしているし、話もおもしろいんだもの。で、その日は1時間で終わって2000円払ってでてきた。その1週間後、またケンちゃんに会ったの。その時は一人だったけど、私のことを覚えていてくれてうれしかった。その日は2時間で4000円。この金額で楽しい時間を過ごせるなら安いと思ったわ。また1週間後、今度は自分から店に行った。ケンちゃんを指名すると、5分ほどでやってきたわ。とても喜んでくれた。その日は3時間で6000円使っちゃった。でも明朗会計だと思ったの。おかしくなったのは5回目ぐらいかな。ケンちゃんがお酒飲みたいと言い出したの。いいわよ。と言ったら、3時間で2万円になっちゃったの。その時、1万円しか持っていなかったから、払えないと言ったら、次でいいんだよ。と言われて、チケットに名前を書かせられたの。1万円ならすぐに払えると思ったけど、支払いに行った次の時に払ってすぐ帰るつもりだったのに、ケンちゃんからさびしくなるって言われて、お店に残っちゃった。その時はすべてツケだったし、私もお酒を初めて飲んだの。5万円のチケットにサインをさせられた。その時、期限があるということで学生証のコピーをとられちゃった。5万円かせぐために毎日バイトやって10日で稼いで払いに行った。それでやめようと思ったけど、ケンちゃんに泣かれてしまい、また10万円のツケを作っちゃった。そうやって今では100万円のツケがある。店長さんに相談したらタチンボすれば10日で返せるよ。と言われたのでやってるの。最初はマッサージだけのつもりだったけど、中には本番を強要する客もいて、もうやめたいんだけど・・」

 と言って泣き出してしまった。その子が言うには19才の専門学校生だという。親から離れて、友達と部屋をシェアしているというが、どこまで本当かはわからない。店の名はFという。場所は歌舞伎町の裏側だ。

 その女の子と別れ、Fの店前に看板持ちをよそおって陣取る。入って拳銃をぶっ放すのは簡単だが、店が壊れるだけで組織を壊滅させるわけにはいかない。

 そこに、店のボスらしき男が高級外車でやってきた。店のホストたちが皆頭を下げている。雄一はしっかり隠しカメラでその顔を納めた。

 家に帰ってから顔認証システムを使って、その男のプロフィールを確認した。すぐにわかった。広域暴力団F組の若頭久保田泰三(49才)である。やはりヤクザがからんでいた。

 雄一のやるべきことは、店をつかえないようにすること。チケットと言われるつけの証拠の処分、そして久保田泰三の抹殺もしくは警察による逮捕である。

 まずはチケットのありかをさぐる必要がある。そこで、SS協力者の女性に客になってもらい、チケットにサインをしてもらった。その際に、かわいいシールを貼るように依頼したのである。見た目にはラインのスタンプみたいなもので、女の子がやりそうなことである。実はこれが発信機となっている。威力は弱いが、1m以内なら受信できる。有効時間は24時間である。

 翌日、清掃スタッフにまぎれこんで店内に入った。マネージャーが一人立ち会っているが、いつもの清掃スタッフなので、雄一一人が増えた程度は気にしなかった。事務所の中に入ると、受信機が反応した。金庫の近くで反応が強い。

(やはり金庫か)

 と思ったところで、マネージャーから

「そこは掃除しなくていい!」

 と怒鳴られた。

 その日はそれで終わった。SS本部に相談すると秘密兵器を送ってくれた。紙状の発火装置である。チケットと同じような印刷がされている。ちょっと厚みを感じるが、じっくり見ないと分からない。袋から出すと酸素と反応して3時間後に発火するという。まるでホッカイロと同じ仕組みだが、SS本部は日本の技術を応用して作ったとのこと。

 翌日の清掃日。雄一は2つのカプセルを店内に忍ばせた。ひとつは厨房、ひとつはソファの下である。中身はゴキブリの卵とカメムシの卵である。3日で動き出すはず。その3日目、またもやSS協力者の女の子にチケットにサインをするように依頼し、閉店間際に例の発火装置とすりかえてもらった。そして、帰り際に騒ぎを起こしてもらった。

「キャー、ゴキブリがいるわよー! こっちにはカメムシ。何この店!」

 と言うと、さっさと店から出された。他の客もそうそうに退出したので、店はいつもより早く閉店した。そこで例の発火装置付きチケットは金庫におさまったのである。深夜、金庫内で発火し、中にある紙類は燃えるかこげてしまった。それにマネージャーが気づいたのは翌朝である。

 午後に久保田泰三がやってきた。店内の様子を見てきつい目をしている。ゴキブリやカメムシがうようよしている店など見たことがない。だれかがカメムシをつぶしたようで、臭いがひどい。苦虫をかんだ顔をして事務所へ入る。そして金庫の中を見る。まだ煙が漂っている。

「金やチケットが燃えてしまいました」

 とマネージャーが言うと、

「ばかやろう!」

 と怒鳴った。

「でも、なぜ燃えたのかわかりません」

「どちらにしてもお前の責任だ。指をつめるだけではすまんからな」

 と捨てゼリフを吐いて、クルマにもどった。ふんぞりかえって後席に座る。運転手はクルマを動かした。しばらくすると、

「おい、道が違うぞ」

 と久保田が言う。そして運転手の顔をじっと見る。帽子とサングラスとマスクをしているのではっきりとはわかりにくいが

「お前、小堀じゃないな」

 と言って、胸ポケットに手をいれた。そこで運転手は脇の下から消音付きの拳銃を発砲させた。久保田の表情がくもる。右手には拳銃が握られていた。

 運転手はそのまま車を動かし、横須賀まで行き、夜にふ頭から車を落下させた。久保田を乗せた車は海の底へ沈んでいったのだ。

 サングラスとマスクを外した顔は雄一であった。近くに置いてあった別のクルマで去っていく。

 他の悪徳ホストクラブも今回の事件を聞き、営業形態を変えるようになった。これにて今回の任務終了。

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