第5話 SS番外 雄一、警察に捕まる
神戸からもどって1週間ほど経ち、マンションの部屋にいるとドアフォンが鳴り、3人の男がモニターに映っている。
「警察です。あることで事情をお聞きしたいのですが・・」
と言いながら警察バッジを提示した。断る理由はないので、ドアを開けると
「兵庫県警の村田と言います。2人は警視庁の者です。それで1週間前の金曜日の夜、どちらにいましたか?」
1週間前というと神戸にいて、例のトレーラーの事件のこととすぐに察しがついた。
「1週間前の金曜日の夜ですか? たしか神戸の知り合いのバーで飲んでいたはずですが・・」
と応えると、
「やはり神戸にいられましたか? それでは詳しい事情をお聞きしたいと思いますので、ご同行願えますか? もしかしたら神戸まで来ていただくことになるかもしれません」
抵抗しても立場を悪くするだけなので、
「わかりました。着替えを用意してきますので、少々お待ち願えますか?」
「いいですよ。玄関は開けたままでよろしいですか?」
「壊されるよりはいいですね」
ということで、警察車両に乗せられて警視庁へ出向いた。そこでは、身分照会だけで終わり、すぐに新幹線で神戸に連れていかれた。村田以外にもう一人の刑事が付き添った。手錠はされていないが、3人席の真ん中に座らせられてがんじがらめだ。車内では終始無言だった。
神戸中央署に入る。狭い取り調べ室に入れられた。任意同行なのに犯人扱いだ。
「それではもう1回確認だ。1週間前の金曜日の夜10時ごろ、どこにいた?」
「この前も言ったとおり、神戸の知り合いのバーにいた。サントスという店だ」
あの事件の後、サントスに行ってオーナー兼バーテンダーの村上にアリバイ工作を頼んでおいた。彼もSSの協力者である。
「確かにオーナーは来ていたと証言したが、防犯カメラには映っていない」
「あそこに防犯カメラはあったかな?」
事実、防犯カメラはない。刑事の村田はカマをかけて、雄一の動揺をさそったのである。
「ところが、お前の顔がいくつかの防犯カメラに映っている。10日前に新幹線で神戸・東京を往復しているよな」
女の子を麻薬更生施設に送った日だ。
「その日、ヤクの売人が捕まった。ある男が倉庫にヤクの売人を閉じ込め、ヤクの元締めの情報を仕入れた。そこで、その男の話からモンタージュで似顔絵を描いた。そして1週間前の金曜日、お前に似た男がトレーラー火災の現場で目撃されている」
「ほー、似顔絵と似ていると言われても困るな。返事のしようがない」
「そこで、そのトレーラーの動きをさかのぼってさぐった。すると、第3倉庫から出てきたのがわかり、その前にお前らしき男が第3倉庫に侵入しているのがカメラに映っていた。バーからはだいぶ離れている。お前のアリバイはこれで崩れる」
「それは夜なんだろ。オレの顔がはっきり映っているのか?」
「それだけでははっきりわからん。だが、顔認証システムにかけると、同じ顔の男が10日前に新幹線で神戸・東京を往復している」
「それは間違いない」
「そこで、2人の足取りを追うと、都内の麻薬中毒患者更生施設にぶちあたった。そこに女の子は収容されており、その身元引受人が福岡雄一。お前だ」
「それは犯罪か? 善行じゃないのか?」
「たしかに犯罪じゃない。だが、奇妙だ。東京の住人がなぜその日のうちに神戸に舞い戻ったのか、仕事が終わってない。ということだ。麻薬の売人をつかまえる必要があったのではないか? 一時は麻薬取締官かと思い、厚生省に問い合わせたが、そんな男はいないという。となると、ライバルの組織のヒットマンかと考えたわけだ。ましてやトレーラーの火災時には2人が死んでいる。一人は絞殺、一人は射殺されている。お前の前歴は防衛隊のレンジャー部隊。絞殺も射殺も堪能だ」
「今はしがない小説家だ」
「お前の小説を読んだよ。世界平和維持部隊というやつ。おもしろかったけれど、まるでサンダーバードみたいな話だったな」
「思わぬところに読者がいたな」
「そこでまた疑問。しがない小説家がどうしてあんな高級マンションに住めるのかな? 相当いい副業をしているんじゃないか?」
「そんなことはないよ。以前、買っていた株が好調で年に1回株を売ると結構な額になるからだよ。損したら安アパート行きだね」
事実、株は買っており、信頼のおけるところに運用を任せている。
その日の取り調べはそれで終わった。任意同行なので帰宅していいと言われたが、東京にもどるには遅いのでホテルに入った。もちろん尾行つきである。逃げ出すのは簡単だが、後々が面倒くさくなるので、おとなしくすることにした。ただ、SS本部には緊急連絡を入れておいた。SMSで
「犬をさがしています」
というメッセージである。犬は警察の隠語で、さがすは反対語で探られているの意味である。SS本部からは返事はこない。でも、おそらく裏で手をまわしていることであろう。
翌日、お迎えがやってきて、またもや神戸中央署に連れていかれた。
すると、刑事の村田がしかめっ面をしている。
「お前はフリーだ」
「ほー、どうしてかな?」
「証拠不十分だとさ。オレは、これから証拠をつかむつもりだったが・・」
「ということは、上からの指示か」
「そんなことは言えん。だが、もし今後兵庫で似たようなことがあったら、お前に容疑がかかると思え。オレはお前を見ているからな」
「遊びにくるのもダメか?」
「遊びだけでくるとは到底思えんな」
ということで、雄一は解放された。SS本部が警察庁に掛け合ってくれたのは間違いない。
刑事の村田は雄一を見送りながら
「あのヤクの売人が言っていた裏の警察かもしれんな。だが、人を簡単に殺していいわけはない。やはり犯罪者には違いない」
とボソッと言っていたが、雄一には聞こえていなかった。
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